PR

 携帯電話の基地局を正しい時刻に同期させないと、基地局同士の電波が干渉して通信に支障を来しかねない。特に次世代高速通信の5Gを支える技術、TDD(時分割多重)方式では、マイクロ秒(100万分の1秒)単位の時刻同期が求められる。こういった時刻同期には、GPSを使うのが一般的だ。しかしビルの谷間などGPS衛星の見通しが悪い場所では、時刻同期の誤差が大きくなってしまう。NTTはこういった悪い条件下で、時刻同期の誤差を従来の約5分の1に抑えるアルゴリズムを開発し、2018年10月23日に発表した。そのアルゴリズムとは、「質の悪い信号は捨てる」というものだ。

ビルなどの反射が誤差の原因

 GPSでは、地球の周りを回る複数のGPS衛星から時刻情報を受け取り、それらの連立方程式を満たす地表の地点を現在地として特定する。これを応用し、特定された自分の位置を元に、衛星から受け取った信号が地表に届くまでの時間を補正して協定世界時(UTC)を算出するのが、GPSを使って時刻を同期する仕組みだ。

 連立方程式を解いて位置情報の特定や時刻の同期をするためには、最低4機のGPS衛星からの時刻情報を受け取る必要がある。日本では通常は10個以上のGPS衛星からの信号が届くため、空間にほとんど遮るものがないオープンスカイの環境なら、誤差100ナノ秒(=0.1マイクロ秒)以下というかなり高い精度で時刻を算出できる。

 だが、ビルなどの障害物が立ち並ぶ都会や、山あいの谷間のような、空の見晴らしが悪い場所では測定精度が落ちてしまう。その最大の原因は、見える範囲にあるGPS衛星(可視衛星)から直接届く信号のほかに、直接見えないGPS衛星(不可視衛星)からの信号がビルなどの障害物に反射したり回り込んだりして届くためだ。

 特に最近はアンテナの感度が向上したことで、「計算に悪影響を与えるGPS衛星の信号もよく拾うようになってしまい、結果的に精度が悪くなっていた」(NTTネットワーク基盤技術研究所 ネットワークアーキテクチャプロジェクト ネットワーク革新技術共創グループの吉田 誠史主幹研究員)。

質の良い信号に絞る

 NTTは、複数の衛星から受け取った信号のうち、質の悪い信号を排除し、なるべく質の良い信号だけを利用するアルゴリズムを開発した。むやみに多くの衛星からの時刻情報を利用するのではなく、誤差を大きくする原因になる時刻情報を思い切って切り捨てて、少数精鋭で精度を向上させるという考え方だ。

 もし信号を直接受けられる可視衛星が4機以上あれば、その情報だけを利用する。反射や回り込みによって届いた信号は強度が弱まるため、直接かどうかはすぐに判別できる。可視衛星が4機に達しなければ、不可視衛星からの信号の中で伝搬遅延の小さい信号を必要最小限だけ選択して利用する。基本的には、信号の強弱ではなく遅延の大小で衛星を選択する。実際には、こうした衛星の選択と受信位置の推定を繰り返すことで、質の良い信号を選択していく。吉田主幹研究員は、「10分から数時間で収束する」と言う。基本的には動かない特定の場所での利用を想定している。

ビルの谷間では、直接見えるGPS衛星(可視衛星)から直接届く信号以外に、見通せないGPS衛星(不可視衛星)から反射したり回り込んだりした信号が届くため、精度が落ちる
ビルの谷間では、直接見えるGPS衛星(可視衛星)から直接届く信号以外に、見通せないGPS衛星(不可視衛星)から反射したり回り込んだりした信号が届くため、精度が落ちる
(出所:NTT)
[画像のクリックで拡大表示]