既存の基幹系システムを刷新しなければならないが、同時にデジタル化を推進する必要もある――。多くの企業がこうした共通の悩みを抱えている。「攻めと守り」のIT活用の両立という難題だ。
住宅設備大手のLIXILも同じ課題に直面していた。そこで同社は2018年10月、組織を大きく変える決断を下した。IT部門である「情報システム本部」の体制を見直したのだ。具体的には、情報システム本部を「攻めと守りとインフラ整備」という3つのチームに再編した。
3チームとは、(1)顧客接点となるシステムの構築と製品やサービスのデジタル化を進める「SoE(System of Engagement)チーム」、(2)基幹システムの刷新に専念する「SoR(System of Record)チーム」、(3)世界規模でネットワークなどを整備する「ITインフラチーム」である。情報システム本部はこれまで、業務アプリケーションごとにチーム分けしていた。これでは攻めと守りの同時進行は難しいと判断。新しく3チームに組織を分けて、各チームのミッションを再定義した。
しかも3チームのトップにはそれぞれ、外部から招いたITプロフェッショナル人材を配置した。攻めるSoEチームは、工具通販のMonotaROや楽天の出身で、Linuxの専門家でもある安井卓IT部門B2Cシステム部長。守りを固めるSoRチームは、住友商事のIT部門に約30年在籍し、その後は住商の情報子会社SCSKで常務執行役員を務めた内藤達次郎IT部門基幹システム統括部統括部長。そしてITインフラチームは、楽天やリクルートテクノロジーズ、DMM.comなどを渡り歩いてきた岩崎磨IT部門システムインフラ部長、という陣容だ。
IT部門の新体制を整えたのは、CDO(最高デジタル責任者)とCIO(最高情報責任者)を兼務する金沢祐悟取締役専務役員。3チームの役割を明確にし、3人のリーダーには目標を提示した。なお、LIXILグループは2019年4月に経営陣の刷新を予定している。ただし、山梨広一氏が後任社長に就く来春以降も、LIXILのIT部門は「この3チーム体制で攻めと守りとインフラ整備を同時に進める方針を変えない」(金沢専務役員)。
では、3つのチームについて、順に詳しく見ていこう。まずは攻めのITを強力に推し進めるSoEチームから。実はこのチームには前身があり、以前は「デジタルテクノロジーセンター」と呼ばれていた。
もちろん、今回の組織再編は単なる名称の変更ではない。従来は「マーケティング本部」にあったデジタルテクノロジーセンターを丸ごと、IT部門に移した。IT部門に組み込むことでマーケッターとエンジニアの積極的な交流を促し、デジタル化を加速させる。それを先導するのが安井B2Cシステム部長というわけだ。
社内PaaSで新サービス向けシステムを連続リリース
SoEチームの任務は2つある。1つはグループ企業内に蓄積されている様々なデータを一元管理できるようにすること。もう1つは、グループの貴重なビッグデータをサービス改善などに役立てることだ。
このうち、グループのビッグデータを蓄積する基盤は構築済み。米グーグル(Google)のDWH(データウエアハウス)サービスである「BigQuery」に、社内の主要システムのデータを集約し始めている。
ただし問題は、集めた大量のデータをどう活用するかだ。このテーマは、新たに構築する「IT基盤」で解決する計画である。ここでいうIT基盤とは「新サービスを実現するために必要になるシステムを、素早く簡単に開発できる機能を備えた仕組み」のことだ。いわば、社内版PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)である。
このIT基盤を使えば、BigQueryに蓄積したデータを活用した新サービスのアイデアを思い付いたとき、すぐにそのサービスをシステムに実装できるという。
安井B2Cシステム部長は、データ活用やB2C向けシステム開発のエキスパートだ。2017年4月にLIXILに転じるまでは、MonotaROのIT部門を率いていた。それ以前は、楽天で取り扱う膨大な商品の検索エンジンを開発していた。Linux関連事業を手掛けるVA Linux Systems Japanで、技術系情報サイト「Slashdot Japan(スラッシュドット・ジャパン)」やオープンソース・ソフトウエア開発サイト「SourceForge.JP」を立ち上げた経歴もある。
多くの専門サイトやシステムを開発してきた経験を生かし、2019年3月にはIT基盤を稼働させるべく、プロジェクトを進めている。IT基盤はクラウドサービスを利用して構築する予定だ。