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 政府の規制改革推進会議が2018年11月19日、携帯電話市場の適正な競争環境の整備に向けた規制改革項目を安倍晋三首相に答申した。総務省に対し、端末代金と通信料金の完全分離、スイッチング(乗り換え)コストの抜本的な引き下げ、接続料金(格安スマホ事業者向けの回線貸出料金)の適正化や透明化などに直ちに着手すべきだとした。総務省はこれを受け、11月26日に十数ページにわたる緊急提言を出す見通しだ。

端末購入補助の完全禁止は難しい

 最大の注目点は、端末代金と通信料金の完全分離だ。携帯電話大手3社のサービスは現状、端末と回線の一体提供が中心となっている。これを完全に分け、ユーザーが好きな端末と回線を自由に組み合わせて使えるようにする。格安スマホでは既に実現していることであり、端末は端末、回線は回線でそれぞれ競争を促す。

 とはいえ、そう単純な話ではない。実現に向けて大きな焦点となるのが、端末購入補助の扱いである。端末購入補助のおかげでユーザーは最新端末を安価に入手でき、大手3社も最新技術を広めやすくなるメリットがある。

 その半面、デメリットも多い。まず、端末を頻繁に買い替える人とそうでない人の間で不公平感がある。しかも大手3社はユーザーの囲い込みを強化するため、端末購入補助を毎月の通信料金から差し引く手法を採用したこともあり、仕組みが複雑で分かりにくさにつながった。さらに多額の端末購入補助は、資金力に乏しい格安スマホ事業者には追随できず、格安スマホ事業者の成長を阻害する状況を生んでいる。

 そこで総務省は大手3社に対し、端末購入補助をなくす代わりに毎月の通信料金を安くする「分離プラン」の提供を促してきた。端末購入補助の削減分を料金下げに振り向けるようにしたわけだ。

 NTTドコモは2017年6月に「docomo with」、KDDI(au)は2017年7月に「auピタットプラン/auフラットプラン」、ソフトバンクは2018年9月に「ウルトラギガモンスター+/ミニモンスター」の名称でそれぞれ分離プランを投入した。

 しかし、docomo withは特定端末の購入が条件となっており、契約数も2018年9月時点で300万件超と広く浸透しているわけではない。KDDIとソフトバンクは分離プランに軸足を移し、「総務省の宿題は済ませた」と胸を張っているものの、「4年縛り」と批判される端末買い替えプログラムで相変わらず端末購入補助を出している。総務省には「半分離」と映る。

「4年縛り」と批判される端末買い替えプログラム(残債免除プログラム)でも端末購入補助を出している(有識者会議におけるKDDIの説明資料)
「4年縛り」と批判される端末買い替えプログラム(残債免除プログラム)でも端末購入補助を出している(有識者会議におけるKDDIの説明資料)
出所:総務省
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 では、端末購入補助を完全に禁止するのかと言えば、それも難しいとみられる。端末の値引きは在庫処分をはじめ、ごく一般の商習慣として認められるべきだからだ。総務省の有識者会議でも、ソフトバンクが「少なくとも我々が把握している範囲で端末購入補助を全く出してはいけないという規制がある国を認知していない。適度な範囲での補助が認められるべきだ」(渉外本部の松井俊彦本部長)と反論した。

 安倍首相の指示で始まった2015年の料金引き下げ議論でも、韓国のように端末の値引きに上限を設ける案が浮上した。だが、「官製談合の誘発」で独占禁止法に抵触する恐れがあるため、結局は導入を見送った経緯がある。一筋縄ではいきそうにない。