武蔵精密工業とイスラエル・シックスアイインタラクティブ(SixEye Interactive)は、人工知能(AI)技術の製造業への応用を目指す開発会社Musashi AI(本社愛知県豊橋市)を設立すると発表した(ニュースリリース)。応用例として完全自動運転可能な無人搬送車と、画像のディープラーニングによる製品外観検査システムを「第3回AI・人工知能EXPO」(2019年4月3~5日、東京ビッグサイト青海展示棟)で展示した。
ガイドラインなしで走行
無人搬送車は、AIによって途中径路を自動で決定する機能を持つ。荷の積み下ろしのためどの地点へどの順番で立ち寄ってほしいかを指示すれば、地点間の進路を無人搬送車が自ら補間して決める(図1)。床にガイドラインを設けなくてもセンサーで位置を把握しながら進む。障害物を検知する機能も持たせており、動く障害物は作業者と解釈して進路が空くまで待ち、動かない障害物は避けて通る。至近距離に障害物を検知した場合は即時に停止する。
屋内用と屋外用の2種類がある。屋内用は1000㎏の荷を搭載して平らな床を走行可能な仕様。屋外用は平地では約1370kg、20mmの段差のある場所は約770kgの荷を搭載できる。段差を通過しやすくするため4輪駆動にするとともに、4輪それぞれを独立に操舵して狭い場所をすり抜ける動きを可能にした。複数台を運用する際は、各車に優先順位を指定するなどして、相互に進路を邪魔しないようにできる。多数台の運用に対しては、一括して制御する「Fleet Management System」も開発中。工場天井にカメラを設置するなどして全搬送車の位置と走行方向を把握し、互いに干渉しないように走行ルートを決め、各車に指示する。
検査システムは、鍛造で造るベベルギアの傷の有無を見る検査と、溶接で組み立てるギアにスパッタ(細かい金属粒)がないかの検査に向けて開発。ベベルギアは、多関節ロボットで拾い上げ、全周を撮像して異常の有無を判定する(関連記事)。現在のところ1個の検査に1分程度かかるため、6個を一度に12秒程度で検査できる専用装置も開発予定(図2)。生産時のタクトタイムが2秒程度なのに追従して、遅れなく全数検査を自動で実施するのが目的である。今後納入先の自動車メーカーの承認を得る予定で、「承認を得るのは簡単ではないが、人の作業者に比べて所要時間や検査の質で優位性があるとデータで示せる見込みがある」(武蔵精密工業)という。
溶接スパッタの検査についても、納入先の承認をこれから得る段階だが、既に不良品を100%排除可能になっているという。ただし、良品を不良と判定する可能性が4%程度残る。それでも、作業者が担うのは4%の中から良品として復活させるかどうかの判定だけで済むようになり、すなわち「検査に要する人件費は4%程度にできる」(同社)見込みだ。
ディープラーニングによる判定や認識を工場で素早く導入するためのハードウエア「Neural Cube」も開発(図3)。米エヌビディア(NVIDIA)の「Jetson TX2モジュール」とAI実装に用いるソフト(CUDA、TensorFlow、Keras)、カメラなどの外部デバイス用開発キットを組み込んだ。これらのソフトは「インストールだけで通常は2週間以上かかって工場では導入しにくかったため、最初から組み込んだものが必要と考えた」(同社)。さらに、工場の制御盤に取り付けるための金具を備え、電源は交流100Vまたは240Vに加えて工場用の直流24Vで稼働可能にした。