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 「民間としては史上初の月面着陸に成功」――。日本時間の2019年4月12日午後に、こんなニュースが世界中を駆け巡るはずだ。月面着陸に挑むのは、イスラエルの非営利団体(NPO)であるSpaceILの月着陸船「Beresheet」。2月22日に米フロリダ州のケープ・カナベラル米空軍基地から、Elon Musk氏が率いる米SpaceXのロケット「Falcon9」で打ち上げられて、高度6万kmの軌道に投入された。重さ約600kgの着陸船は毎秒10kmの最高速度で、宇宙を1カ月半飛行してきた。

 2019年4月5日に月周回軌道に入り、軌道を数回周回して徐々に降下し、4月12日に月の北半球の「静かな海」に着陸する予定だ(図1)。成功すれば、ロシア(ソ連)、米国、中国に続いてイスラエルが4カ国目になる。

図1 イスラエルSpaceILの月着陸船「Beresheet」のイメージ
図1 イスラエルSpaceILの月着陸船「Beresheet」のイメージ
(出所:SpaceIL)
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月面探査レースの参加チームが続々月へ

 Israel Aerospace Industriesの協力で開発した着陸船は4本の着陸脚を備え、各脚は逆三角形を形成する3本の伸縮式支柱から成る。着陸の際は、制御システムによって高度約5kmで着陸船の姿勢を安定させ、月面から5mの高さで推進装置を停止し、月の重力で自由落下する。直径5㎝のアルミニウム製ハニカムが着陸時の衝撃を吸収する。月面では、搭載している観測装置で磁場を測定する予定だ。

 SpaceILの設立は2011年で、人類初の月面探査レース「Google Lunar X Prize」に参加するのが目的だった。Google Lunar X Prizeは米XPRIZE財団が主催し、米Googleがスポンサーとなって2007年にスタートした。2018年3月31日までに月面探査機を着陸させ、月面を500m以上走行して高解像度画像などのデータを地球に送信することに成功したチームには、賞金3000万ドルが贈られるというものだった。

 SpaceIL を含む5チームが決勝に進んだものの、結局期限までに月着陸に成功したチームは現れず、勝者がないままレースは終了した。SpaceILはその成果を生かして、着陸船を月に送り出したのである。