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 英グローブ・トロッター(Globe Trotter)は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)を使った新素材「AERO Carbon」をシェル材に採用した旅行用ケース「エアロ」シリーズを発売する(図1)。製品化に当たっては東レ・カーボンマジック(本社滋賀県米原市)が技術協力した。

図1 新素材のCFRPを使った高級旅行用ケース「エアロ」シリーズ
図1 新素材のCFRPを使った高級旅行用ケース「エアロ」シリーズ
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 AERO Carbonは、エポキシ樹脂をベースとするCFRP層とポリウレタン(PU)の樹脂層を交互に計4層重ねた構造を持つ(図2)。熱硬化性のエポキシ樹脂と熱可塑性のPUを組み合わせたのが特徴で、外側のPU層はシェルの保護および塗装なしで外観品質を確保する役割を、中間のPU層は力が加わった際の2つのCFRP層のずれを吸収する役割を果たす。これにより軽量・高強度というCFRPの特性を保ちつつ、弾力性・耐衝撃性に優れた素材を実現したとする。20インチサイズの旅行用ケースの場合、従来製品が4kgなのに対し、新製品は3kgと25%軽量化できた。シェルの厚みは8~9mm程度と従来の約半分という。

図2 AERO Carbonの構造
図2 AERO Carbonの構造
エポキシ樹脂系のCFRPとポリウレタンを積層している。
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 旅行用のスーツケースなどは、空港での荷積みの際に放り投げられることが多く、柔軟性・耐衝撃性が求められる。従来の一般的な産業用CFRPは、硬いものの弾力性がないために強い衝撃が加わると割れ、中の炭素繊維がささくれのように飛び出すという難点があった。AERO Carbonは、力を加えてもある程度しなる上、割れても炭素繊維が飛び出さない。新素材の技術特許自体はグローブ・トロッターが保有しているが、自動車や航空機向けのCFRPで高い量産技術を持つメーカーとして東レ・カーボンマジックに技術協力を依頼したという。シェルは、東レ・カーボンマジックの米原工場もしくは主力のタイ工場で生産し、最終組立はグローブ・トロッターの日本拠点で行う。

図3:東レ・カーボンマジック代表取締役社長の奥 明栄氏(左)とグローブ・トロッタービジネスディベロップメント ディレクターのジェームズ・フィッシャー氏
図3:東レ・カーボンマジック代表取締役社長の奥 明栄氏(左)とグローブ・トロッタービジネスディベロップメント ディレクターのジェームズ・フィッシャー氏
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 量産に当たっては、「熱硬化性のエポキシ樹脂は扱い慣れているが、そこにPUを重ねるので従来の経験値だけでは造れなかった」(東レ・カーボンマジック生産技術部マネージャーの若林宏樹氏)。通常のCFRPは、炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを金型に貼り、それをオートクレーブで焼いて成形する。しかし、「さらさらのPUシートでは従来法が使えない」(同氏)。そこで、金型(本型)を反転させたような形状の賦形(ふけい)型と呼ぶ型にPUシートやCFRPシートを置いて予備成形。これによって柔らかいPUシートを型に沿ってきれいに敷いた上で、予備成形した素材を反転させるように本型に入れて焼く(図3)。通常のCFRPの焼成に比べると工程が増えるが、「賦形型さえあれば手間はかからないため生産コストにはさほど影響しない」(同氏)という。

図3 賦形型を使ったAERO Carbonの製法
図3 賦形型を使ったAERO Carbonの製法
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 また、加熱前のCFRPシート(プリプレグ)表面を少し荒らしているという。オートクレーブでの焼成時に軟化したPUが荒れた表面に食い込んでアンカー効果を果たし、2つの樹脂材料が密接に接合する。この他、表面をつや消しにするためのシボ加工を施した離型シートを一緒に焼くという新手法も取り入れた。これによって塗装が不要になり30%以上のコストダウンが図れたという。

 グローブ・トロッターの旅行用ケースは、紙を14層重ねた「ヴァルカン・ファイバー」と呼ぶ独自素材を用いている。英国のエリザベス女王が愛用している他、世界のセレブリティーらが使う軽くて丈夫な高級旅行ケースブランドとして知られる。実は同社は創業120周年を記念して2017年にもCFRP製ケースを限定生産した。しかし、当時は耐衝撃性の確保のためにシェルを厚くしたことから高価な上に重くなってしまったという。今回、独自開発の新素材と東レ・カーボンマジックの量産技術によって、「軽くて従来製品なみの価格帯でカーボン素材を使ったケースを実現できた」(田窪氏)。

 旅行用ケース以外の用途について東レ・カーボンマジック代表取締役社長の奥 明栄氏は「今のところすぐに思いつかない」と述べたが、自動車用のバンパーなど強度と弾性を求められる部品の材料としての可能性はありそうだ。グローブ・トロッター・アジアパシフィックの田窪寿保氏も「旅行用ケース用でなければ、他の用途向けにライセンスしていきたい」としている。

 新製品は「エアロ」シリーズとして、2019年8月下旬から世界に先駆けて日本で先行発売する予定(グローバル販売はその1カ月後)。価格は18インチサイズのトロリーケース(4輪キャスター付き)が28万円(税別)、20インチサイズの同ケースが27万8000円(同)、27インチサイズのスーツケース(4輪キャスター付き)が34万8000円(同)。