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出力重視エンジンに水噴射を検討

 熱効率を高めるために、ホンダがプレチャンバー技術に加えて注目する技術が「高圧リタード噴射」である。インジェクターを高圧にした上で、噴射時期を通常より大幅に遅くする(遅角化、リタード)。

 一般に噴射時期の遅角化は、不完全燃焼につながりやすくなる。燃焼開始までの時間が短くなり、燃料と空気が混ざる時間が不足するためだ。

 一方で、遅角化すると気筒内の乱流を強められる利点がある。燃料を噴射したときの勢いで混合気を乱し、その乱れを燃焼開始時期まで維持できる。乱れを強めると、燃焼が速くなる。

 遅角化しながら、燃焼開始までの短い時間で燃料と空気を混ぜるのに役立つのが、インジェクターの噴射圧を高めることである。ホンダは実験で、噴射圧を20MPaから35MPaに高め、噴射時期を大きく遅らせることに成功した。

 通常はピストンが下死点に差し掛かる直前に噴くところ、下死点を過ぎて上昇し始めてから噴く。具体的にはBTDC(上死点前)の30度付近まで噴射時期を遅らせた。ノッキングを抑え、圧縮比を高めて熱効率を上げられる。

 熱効率を重視したエンジンの開発と並行して、ホンダは最高熱効率は40%とそれなりに高い状態を実現しつつ、比出力で100kW/Lに達する出力を重視したガソリン機の開発を進める。注目するのが、水噴射技術だ。

 燃費性能と同時に、出力を高められる可能性がある。最近ではBMWがドイツ・ボッシュ(Bosch)の技術を採用して実用化している。

BMWは、2016年に発売した高性能スポーツ車「M4 GTS」に搭載する直列6気筒直噴ターボガソリンエンジンに、ボッシュが開発した水噴射技術を採用した。(出所:ボッシュ)
BMWは、2016年に発売した高性能スポーツ車「M4 GTS」に搭載する直列6気筒直噴ターボガソリンエンジンに、ボッシュが開発した水噴射技術を採用した。(出所:ボッシュ)
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 水噴射技術は、気筒内に水を噴くことで温度を下げて、冷却損失を減らすもの。ノッキングを抑えることにも寄与する。

 同技術はエンジンの動作する全域で使えるが、中でも設計上の最大負荷である「全負荷」における燃費性能や排ガス性能を向上する効果が大きい。

 全負荷ではよく、ノッキングを防ぐために燃料を濃く噴いて冷却するリッチ燃焼にする。その代わりに水を噴けば、冷却用に使う燃料を減らせる。

 逆にいえば、燃費性能や排ガス性能を考慮して高回転域のトルクを抑えていた場合、水噴射を活用することでトルクを高められる。ホンダは水噴射を、「出力のリカバリー(回復)に有効な技術」(ホンダの新里氏)と表現する。