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 デジタルトランスフォーメーション(DX)は今や多くの企業にとっての重要課題。国を挙げてDXを推進するため、経済産業省は様々な取り組みを進めてきた。「2025年の崖」というセンセーショナルなキーワードを掲載した提言書「DXレポート」は有名だ。同書を受け、DXに向けてやるべきことをまとめた「DX推進ガイドライン」も策定した。

 そんな経産省が次の施策として打ち出したのが、企業のDXの進展度合いを判別する「DX推進指標」だ。2019年7月31日に公開した。全部で35問の質問に回答することで、自社のDX推進レベルを自己診断できるというものである。

経済産業省が公表した「DX推進指標」
経済産業省が公表した「DX推進指標」

 DX推進指標を作成したのは「『見える化』指標、診断スキーム構築に向けた全体会議」と「同ワーキンググループ」の合計約30人。国内の大学教授やITベンダー、ユーザー企業の代表者が策定に携わった。さらに、DX推進指標のプロトタイプをユーザー企業約30社に開示し、そのフィードバックを得て今回の公開に至った。

 「経営者を含めた社内の関係者で活用することで、次のアクションを起こすための参考にしてもらいたい」。2019年6月まで経産省の大臣官房審議官を務め、DX推進指標の策定を統括した成田達治内閣官房内閣審議官はこう説明する。

 DX推進指標の中身はこうだ。全35問の質問は大きく「DX推進の枠組み」と「ITシステム構築の枠組み」に分かれている。例えば、DX推進の枠組みには「データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか、社内外でビジョンを共有できているか」といった内容の質問がある。

 各質問への選択肢はレベル0からレベル5までの6段階に分かれている。レベル0は「未着手」、レベル1は「一部での散発的実施」、レベル2は「一部での戦略的実施」、レベル3は「全社戦略に基づく部門横断的推進」、レベル4は「全社戦略に基づく持続的実施」、レベル5は「グローバル市場におけるデジタル企業」という位置付けだ。

成熟度レベルごとの企業の特性
(出所:経済産業省の資料を基に日経 xTECH作成)
成熟度レベル特性
レベル0「未着手」経営者は無関心か、関心があっても具体的な取組に至っていない
レベル1「一部での散発的実施」全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている
レベル2「一部での戦略的実施」全社戦略に基づく一部の部門での推進
レベル3「全社戦略に基づく部門横断的推進」全社戦略に基づく部門横断的推進
レベル4「全社戦略に基づく持続的実施」定量的な指標などによる持続的な実施
レベル5「グローバル市場におけるデジタル企業」デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル

 先に挙げた「社内外でビジョンを共有できているか」という質問に対して、「ビジョンが提示されていない」状況であればレベル0、「ビジョンが明確に提示され、全社での取組がビジョンに整合的に進められている」ならばレベル3である。レベル5の回答は「ビジョンがグローバル競争を勝ち抜くことができるものとなっており、全社での取組が、グローバル競争を勝ち抜くとの認識の共有の下に、持続的に進められている」だ。

 選択肢を見る限り「答える人によって回答が変わりそうだ」と思うかもしれない。実際、その通りだ。しかし、DX推進指標についてはそれでよいという。

 「DX推進指標は企業に優劣を付けるためのものではない。経営者や事業部門、IT部門など異なる立場の人が、それぞれ各項目についてどう考えているか、認識を合わせるためのコミュニケーションツールとして使ってもらいたい」(成田内閣審議官)。

 一般にDXについては、PoC(Proof of Concept、概念実証)までは進むが、実ビジネスへ適用できずに悩む企業が多いと言われている。DXの推進組織が経営層や事業部門から協力を得られていないことが、原因の1つと指摘される。経産省はDX推進指標をきっかけにして、全社的なDX推進体制が構築されることを期待している。

 経営者にも質問に答えてもらえるように工夫してある。35問中9問を「キークエスチョン」とし、重要だが比較的抽象度の高い質問にした。この9問については経営者を含めて議論することを推奨している。

 先ほどのビジョンについての質問もキークエスチョンの1つ。この他、「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか」「DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取組が行われているか」などがキークエスチョンである。