「人工的な感覚を提示して『リアル』な世界を体験させるVR(仮想現実)が、現実のビジネスに使われるようになってきた」――。日本バーチャルリアリティ学会で理事を務める米デルテクノロジーズ(Dell Technologies)の黒田晴彦日本最高技術責任者は産業界におけるVRの広がりをこう訴えた。
黒田氏はデルがインテルと共同で2019年8月2日に開催した「VR研究会第3回会合 視覚を超えたVR」で登壇した。同研究会ではものを感知する「力覚デバイス」の研究者や産業向けVRソリューションを開発する企業の担当者らが登壇し、研究内容や最新の開発事例を披露した。
糸の力で力覚与えるデバイス
基調講演では東京工業大学の佐藤誠名誉教授が登壇し、ストリング型力覚提示装置「SPIDAR(スパイダー)」の開発について講演した。SPIDARは手で持つ操作部と本体フレームを複数のストリング(糸)でつなぎ、モーターでストリングを引っ張って使用者に力覚を与えるデバイスである。操作部の位置に基づいてストリングの張力を制御して、仮想空間のオブジェクトがあたかもそこにあるかのように感じさせる。オブジェクトを手で動かすことも可能だ。
佐藤名誉教授はこの技術を用いた遠隔地にいる人との力覚コミュニケーションや、両手の8本の指を独立制御できる「SPIDAR-8」といったデバイスを紹介した。今後はヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)と組み合わせて、VR空間を自由に歩き回りながら使えるワイヤレスのウエアラブル型力覚提示デバイスを研究していくとした。
解析ソフトの開発などを手掛ける日本イーエスアイ(東京・新宿)の新関浩技術本部長はVR空間の中で製品の組み立て状況やメンテナンス性を検証できる製造業向けのVRソフト「IC.IDO(アイシーアイドゥ)」を紹介した。IC.IDOの特徴は部品同士の接触や、ワイヤハーネスなど変形する部品の動きをリアルタイムにシミュレーションできる点だ。特に自動車の設計・試作検証などで使われているという。
「当初は試作段階での導入が多かったが、最近は(より早期の)設計段階での導入事例が増えてきた。製造業における工数削減やコスト削減に貢献できるように、いかに実体験に近づけるかを重視して機能開発を進めている」(新関技術本部長)。日本の自動車メーカーと協力して開発してきた機能として、VRグローブを装着した手の動きをアバターに反映させる「フィンガー・ハンド・トラッキング」機能や、拠点間で同一のモデルをリアルタイムに共同検証する機能を紹介した。