西松建設が施工中のある地下工事現場では、地下水の浸入などを防ぐ止水壁に手のひらサイズの「白い箱」が取り付けられている。CACHが開発した、ひずみモニタリングシステム「ST-COMM(エスティーコム)」だ。建設現場の遠隔監視やインフラの維持管理にIoT(インターネット・オブ・シングズ)を取り入れる動きが進んでいる。
人手を割かずに止水壁を監視
地下工事現場では、止水壁が外側からかかる土圧を押さえて安全性を確保する。外力との均衡を取れているか、地下水の浸入を示すような異常がないかどうかを常に確認しなければならない。
これらの監視には従来、現場に大掛かりな計測装置を持ち込み、外部電源やパソコンとつなぐ必要があった。無線ネットワークを介して測定データを遠隔から監視するとなれば中継器や基地局などの設置が必要となり、数百万円の初期費用がかかるケースもある。そもそも地下工事では狭い現場も多く、装置を置けない場合には作業員の目視に頼るしかなかった。
ST-COMMを使えば外部電源や基地局などを用意することなく、構造物の変形を確認する指標の1つである「ひずみ」を手軽に遠隔監視できる。ひずみを測定したい場所に手のひらサイズの機器を設置し、1度電源を入れるだけで測定データが1時間に1回、クラウドに自動送信される。測定データは専用のアプリケーションでパソコンやスマートフォンから確認可能だ。ほとんど人手を割かずに止水壁の様子を確認できる。
機器本体の大きさは縦80ミリメートル、横160ミリメートル、高さ56ミリメートルほどで重さは約500グラム。コンパクトなので場所を選ばず、マグネットやボルトなど現場に合った方法で設置できる。乾電池で動くため、外部電源は不要だ。1日4回計測する場合で約5年持つ。
データの通信には、京セラが提供するIoT向けのLPWAサービス(ローパワー・ワイドエリア)サービス「Sigfox」を使う。Sigfoxは「低消費電力」「長距離通信」を特長とするが1度に送れるデータ量が12バイトと非常に小さいため、独自の圧縮技術でひずみの測定値や温度、湿度のデータを送るようにした。
ST-COMMはレンタル提供を基本としている。従来の遠隔監視システムであれば機器や通信の費用で年間300万~400万円かかるところを、約10分の1まで抑えられるという。
西松建設の現場では2019年4月から4台が稼働中だ。ひずみモニタリングは現在も問題なく稼働しているという。「場所を取らず、コストも抑えられたと高い評価をもらっている」とCACHの石川幸佑最高執行責任者は話す。