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 強力な接着剤として抜群の知名度を誇る「アロンアルフア」。東亜合成(同社の表記は東亞合成)が開発した瞬間接着剤だ。2019 年 9 月 18 日 には、「一般消費者向け瞬間接着剤の最長寿ブランド」としてギネス世界記録の公式認定を受けた。その強さを一般に印象づけたのは、ユニークで、かつ視聴者の度肝を抜くテレビCMだろう。例えば、2016年に製作されたCMはこうだ。

* 最後の「ア」は大文字。「~ファ」ではない。

 アロンアルフアを床に塗り、その上に重いバーベル(のプレート部分)を置く。ここに屈強な男が登場。男はこのバーベルを床から持ち上げて引き剥がそうとする。力自慢か? と思いきや、実はバーベルは天井に接着されており、男はバーベルのシャフトにぶら下がっているだけ。なんと、アロンアルフアは、バーベルと男を合わせた230kgfあまりの重さにも楽々と耐える接合力を持つ──。

アロンアルフアのユニークなCM
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アロンアルフアのユニークなCM
天井とバーベルをアロンアルフアで接着。それだけでバーベルと男性を合わせて230kgfの重さに耐える。(出所:東亜合成)

 「世界で最も強い接着剤は何か?」と聞かれたら、アロンアルフアの名前を挙げる人は、技術者の中でも意外に多いのではないだろうか。

1円玉の面積でプリウスを吊れる

 結論を先に言えば、現在世界最強の接着剤は「XNR 6852 E-3」である。開発したのはナガセケムテックス(大阪市)。商社である長瀬産業の子会社の化学メーカーだ。まるで型番のような名前で、アロンアルフアとは違ってキャッチーな製品名は付いていない。失礼ながら、無名だろう。

 だが、驚くのはその接合強度だ。接着剤の接合の強さを示す代表的な指標に「引張せん断強度」がある。アロンアルフアの引張せん断強度は10MPa弱。東亜合成によれば、例えば「グレードや基材(くっつける材料)により異なるが、『EXTRA』シリーズで、基材がポリカーボネート(PC)同士の場合で7MPa」という。この数字を知った筆者に、「では、世界最強の接着剤の接合強度はどれくらいだと思いますか?」と試問したのは、構造接着技術の分野で現在日本をリードする東京工業大学科学技術創成研究院教授の佐藤千明氏である。アロンアルフアが最強と信じていた筆者は、「うーん……」とうなったまま答えられなかった。

* 構造接着技術 高い強度を要する構造部材の接着技術。飛行機や電車、自動車のボディーや建材などに使う接着技術のこと。

 正解は「49MPa」だ。アロンアルフアをはるかに上回る引張せん断強度を備えているのである。後述するが、接着剤は引張せん断強度だけで単純に優劣を語ることはできない。適材適所で使い分けるというのが正しい使用法だ。例えば、室温で瞬間的にくっつき、用途が広くて一般の人にも扱いやすいアロンアルフアの優れた特徴は、エポキシ系であるこの最強の接着剤にはない。それでも、ここではあえて接合強度に的を絞ってみたい。

 49MPaは4.9kgf/mm2と言い換えた方が、イメージが伝わるかもしれない。わずか1mm四方の面積にこの接着剤を塗れば、4.9kgfの重さに耐える。ということは、わずか1cm2の面積で、実に490kgfの接合強度を持つのである。例えば、トヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」(車両重量が1320~1460kgf)であれば、3 cm2の面積、すなわち1円玉程度の面積にこの接着剤を塗布してくっつければ吊(つ)り上げられる計算だ。