ガリウムヒ素(GaAs)系の超高効率太陽電池はこれまで、変換効率はSi系太陽電池の2倍近くと高いが、製造コストが高価なため、人工衛星など限られた用途にしか使われていなかった。今、コストをこれまでの1/200に低減する技術開発が進展している。街乗り用EVが必要とするエネルギーの大半を太陽電池で賄えるなど、エネルギー問題のゲームチェンジャーになりそうだ。
1日数十kmの街乗りであれば太陽電池だけでEVが走る─。そんな世界の到来が急速に現実味を帯びてきた。
ここにきて、ガリウムヒ素(GaAs)系の超高効率太陽電池を車体に1kW分前後と大量に貼り付けた4人乗り前後の乗用車の開発例が急増している(図1)。中国Hanergy Mobile Energy Holdingは米国のGaAs系太陽電池メーカーである米Alta Devicesを2013年に買収。その技術を利用し、2016年に4種類のコンセプトカーを発表した。1日の太陽光による充電で80km走るクルマや、太陽電池パネルが可動式で駐車時などはフロントグラスを覆う一石二鳥のクルマなどである。
2021年にも実用化が始まる
実際の製品も登場してきた。もともとは大学発ソーラーカーチームだったオランダLightyearは2019年6月、高効率太陽電池を搭載したEV「Lightyear One」を開発し、予約販売を開始した。納車は2021年の予定だ。太陽電池に加えて空力特性の高さが特徴で、推定60kWhの蓄電池で725km、太陽電池も併せると約800km走行できるとする。電費は12k~13km/kWhと非常に高い。
動きは海外ばかりではない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とシャープおよびトヨタ自動車は2019年7月、トヨタの「プリウスPHV」にシャープのGaAs系太陽電池(約860W分)を貼り付けたクルマを発表した。計算上は1日分の太陽光充電で50km前後走るが、これを実証する走行試験を2019年度末まで続ける。
1日の充電で2日分超走れる
一般に日本の自家乗用車の走行距離は、国土交通省の2004年の調査で1日平均約29km。2015年のソニー損害保険の調査でも、自家乗用車の6割は1日平均19kmしか走っていない。こうしたクルマは、2~3日のうち1日晴天であれば、超高効率太陽電池の発電分で走行に必要な電力の大半を賄えることになる。
追加費用は約1000万円?
これらの数字を見ると良いことづくめだ。しかしこれまで普及していないのには理由がある。GaAs系太陽電池の価格が非常に高いのである(図2)。価格は1W当たり約5000~2万円。一方、大規模太陽光発電システム(メガソーラー)などに用いられているSi系太陽電池は同50円前後であることから、実に100~400倍になる。乗用車1台に実装する1kW分のGaAs系太陽電池セルは、500万~2000万円する計算だ。
実際、Lightyear Oneの価格は税込みで約1790万円。うち約1000万円分が太陽電池の費用だとみられる。仮に年間走行距離1万kmで電費7km/kWhのEVなら、電気代は、25円/kWhとして3万5714円/年。10年乗っても36万円弱で済むことから、それがゼロになるからといって高額なGaAs系太陽電池を使う経済的合理性は成り立たない。
大幅なコスト低減技術が進展
それでも最近になって、大量の太陽電池を貼り付けたクルマの試作が増えてきたのには、このコストの高い壁を大幅に低減する技術開発が進んでいることがある。それを推進するのは、米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)やNEDOだ。
NRELは既存のGaAs系太陽電池のコストを1/100にするロードマップ、NEDOは1/200にするロードマップをそれぞれ描いている(図3)。仮にコストが1/200になれば、発電単価はSi系太陽電池に並ぶ水準となる。すると変換効率の高さが大きな強みとなり、Si系太陽電池の大部分がGaAs系に置き換わる可能性も出てくる。同面積であれば、発電出力はSi系の1.5~2倍となり、世界や日本のエネルギー問題の軽減に大きく寄与することにもなる。