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 フランスのマルセイユに本拠を置くベンチャー企業ユニステラ(Unistellar)は、ソニー製の超高感度CMOSセンサーを利用した反射望遠鏡「eVscope」を開発した。反射鏡は口径11.4cmだが、集光力は「口径1mの望遠鏡並みで、東京のような都会でも16等、空の暗い場所なら18等の星を観測でき、これまで肉眼では色がよく分からなかった星雲も色付きで見られるようになる」(同社)という注1)。同社は、2019年12月10日から、日本のクラウドファンディング「CAMPFIRE」で支援者を募る予定だという。定価は約35万9820円(税抜き)。

注1)口径1mの望遠鏡並みになるのは集光力で、天体の微細な構造を見る「光学分解能」は口径11.4cmの望遠鏡相当のままである。ただし、ユニステラによれば、「大型の望遠鏡でも、大気の揺らぎに邪魔されて本来の分解能はなかなか発揮できない」。一方で、eVscopeでは数秒から数十秒の露光で天体の映像を重ね焼き(コンポジット撮影)する効果によって、大気揺らぎの影響を一定程度相殺する効果があるとする。

Unistellar製デジタル反射望遠鏡「eVscope」
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Unistellar製デジタル反射望遠鏡「eVscope」
架台は経緯台である。(撮影:日経xTECH)

eVscopeの接眼部
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eVscopeの接眼部
一般的な望遠鏡で使う接眼レンズはなく、接眼部を除くと有機ELディスプレーの映像が見える。(撮影:日経xTECH)

望遠鏡の先端の様子
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望遠鏡の先端の様子
奥に反射鏡とそれに映った副鏡が見える。(撮影:日経xTECH)

 これまでも、利用者が自ら望遠鏡にデジタルカメラを接続することはできたが、当初からCMOSセンサーを実装した「デジタル反射望遠鏡」の製品化は、一般消費者向けではほぼ初めて。口径11.4cmでも集光力は口径1m並みという“魔法”を実現するのは、自動追尾と4秒単位の露光による。

恒星図と照合しながら星を自動追尾

 自動追尾といっても、面倒な赤道儀の極軸合わせは不要。そもそも、架台は赤道儀ですらなく、いわゆる経緯台†である。しかも、設置時の向きも任意だという。「どこへでも持っていくことができ、その場に置いただけで使える」(ユニステラ)。

†赤道儀=望遠鏡の架台の一種。1つの回転軸だけを使って、恒星の動き(日周運動)を追尾できるように設計されている。

†極軸合わせ=赤道儀の恒星追尾時の回転軸の向きを地球の自転軸の向きに合わせること。

†経緯台=望遠鏡の架台の一種。2つの回転軸を備えるが、1つは垂直軸、もう1つは地面に平行な軸であるため、星の動きを追うには、この2軸の回転を同時に制御する必要がある。

 eVscopeは、GPSで地球上での位置を把握。さらに視野中の星の配置と恒星の位置のデータベースとをリアルタイムに照合することで経緯台での自動追尾を実現した。この際、天体の座標(天球座標)も把握できるため、星雲や彗星など特定の天体の座標を望遠鏡に入力すると、その天体を即座に視野に導入できる。入力には、ユニステラのAndroid/iPhone向けアプリを利用する。アプリでは、主だった星雲などの天体のデータベースが用意されているため、わざわざ天球座標を入力することなく、見たい天体を選ぶだけでよい。

東京都渋谷区で開かれた観望会の様子
東京都渋谷区で開かれた観望会の様子
ユニステラが2019年11月20日夕方に開催した、東京・渋谷の代々木公園での観望会の様子。ただし、直前まで晴れていた空が急に曇天になったため、リアルタイムでの天体観測はできなかった。背景のビルは渋谷のNHK放送センター。(撮影:日経xTECH)

観望会の数日前に東京・恵比寿で撮影した星雲(M27)の映像
観望会の数日前に東京・恵比寿で撮影した星雲(M27)の映像
(撮影:日経xTECH)

アプリで惑星の動きも分かる
アプリで惑星の動きも分かる
(撮影:日経xTECH)

ソニーの「世界最高感度」のセンサーを実装

 口径1mの望遠鏡並みの集光力は、この自動追尾機能と、超高感度CMOSセンサーによる4秒単位の露光を組み合わせた結果だ。露光時間はさらに伸ばすことができる。

 視野に入れた天体の映像は、一般の望遠鏡と同様に接眼部からのぞいて見る以外に、アプリを入れたスマートフォンにも表示できる。現時点では、1台のeVscopeの映像を表示できるのは、2台までのスマートフォンやタブレット端末だが、「今後、20台まで増やすことを検討している」(ユニステラ)。実現すれば観望会などで役に立ちそうだ。

 実装したCMOSセンサーはソニーが2014年に発表した1/3型車載用センサー「IMX224」。有効画素数は127万画素、つまりHD相当である。0.005lux(ルクス)という低照度でも撮影ができることから、発表当時は「世界最高感度」(ソニー)だった注2)

注2)ユニステラが米国で実施したクラウドファンディング(Kickstarter)で既に購入を決めたというある天文ファンは「最新のセンサーであれば、(4Kでさらに高感度など)もっとよいものがあるのに」と残念がる。ただし、最新のCMOSセンサーを使えば、価格はさらに高額になった可能性がある。