全3196文字
PR

 インクジェット印刷を使った電子回路製造技術を手掛ける東京大学発ベンチャー、エレファンテック(旧AgIC)は現在稼働している本社工場を報道陣に公開した。場所は東京・銀座近くの倉庫・工場街に位置する、元印刷工場を改築したコンパクトな工場だ。主に試作(プロトタイプ)やデモ機などに向けたフレキシブル基板を製造している。

 同社が製造するフレキシブル基板は、自動車における実装の「破壊的イノベーション」となり得る技術だ。例えば、現在の自動車に大量に搭載されているワイヤハーネスの一部を不要にできる可能性を秘める。同社の本社工場は、そんな「次世代フレキ」を生み出す重要拠点でもある。

エレファンテックのフレキシブル基板
エレファンテックのフレキシブル基板
「P-Flex PET」のサンプル基板(撮影:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]

シンプルな工程で「小さな工場」実現

 現在、同社ではインクジェット印刷を使って片面フレキシブル基板を製造している。一般的なプリント配線基板の製法は、「版」となるフィルムとフォトレジストを使い、エッチングによって銅箔層から不要部分を除去することで回路を形成する「サブトラクティブ法」である。一方、同社の技術ではインクジェット印刷によって必要部分に銀ナノインクを塗布し、それをシード層として無電解銅めっきにより回路を形成する。いわゆる「アディティブ法」の1種に当たる。基材にはポリイミド(PI)とポリエチレンテレフタレート(PET)を用意する。

 工程は大きく3つに分かれる。1つめは、銀ナノインクを使ったインクジェット印刷と乾燥(数~20分)、焼成(数十分)などを行う工程である。セイコーエプソンの「R&D用インクジェット装置」を活用しているという。セイコーエプソンはエレファンテックに出資している(関連記事「インクジェットで作るプリント基板にセイコーエプソンらが18億円出資する3つの理由」)。

銀ナノインクを使ってインクジェット印刷
銀ナノインクを使ってインクジェット印刷
セイコーエプソンのR&D用インクジェット装置を活用する(撮影:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]
印刷しているところ
印刷しているところ
ビニール越しに撮影したためボケている(撮影:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]
印刷したパターン
印刷したパターン
乾燥、焼成などの工程が続く(撮影:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]

 2つめは、めっき工程だ。厚さ方向に対して一般には0.3μ~0.4μm/時というめっき速度を、同社では4μm/時に速められたとする。溶液の温度や濃度、めっき厚などをリアルタイムで計測して調整する細かな制御により実現しているとする。廃液は濃縮せず全量回収しているが、それでもエッチングによる方法と比べて十数分の1に抑えられるとする。シンプルな工程だからこそ、廃液処理などの設備も少なく、こうした小さな工場が実現できるというわけだ。

めっき工程の全景
めっき工程の全景
実験室のような雰囲気(写真:エレファンテック)
[画像のクリックで拡大表示]
めっき工程の一部
めっき工程の一部
状態を細かに計測、フィードバックする点に特徴があるとする(写真:エレファンテック)
[画像のクリックで拡大表示]
めっき工程の一部
めっき工程の一部
基本は一般的な無電解銅めっきと同じとする(写真:エレファンテック)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただし課題もある。製法上銅を厚くすることが難しく、同社の標準仕様では銅膜厚は3μm。フレキシブル基板で一般的な12μ~20μmといった銅膜厚に比べると薄いため、許容電流値や線幅には注意が必要だ。

 3つめは、レジスト塗布や「シルク」と呼ばれる部品番号の印刷、フライングチェッカーによる検査などを行う工程である。ちなみに、シルクという呼び方はシルクスクリーン印刷に由来するが、同社ではレジストやシルクもすべてインクジェット印刷で行っており、この部分でも版は不要となる。

ワークサイズは最大で390mm×228mm
ワークサイズは最大で390mm×228mm
(撮影:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]

この記事は有料会員限定です

日経クロステック有料会員になると…

専門雑誌8誌の記事が読み放題
注目テーマのデジタルムックが読める
雑誌PDFを月100pダウンロード

日経電子版セット今なら2カ月無料