イメージセンサーでトップシェアに位置するソニーグループが、新しい3種の同センサーを半導体素子の学会「65th International Electron Devices Meeting(2019 IEDM)」(2019年12月7~11日、サンフランシスコ)で発表した。いずれも「業界初」(同社)の技術を採用した、同社こん身の成果である。イメージセンサーなどを取り上げる「セッション16」の全7講演中、招待講演を含めてソニーグループが4件と過半を占めた。
暗所で高速オートフォーカス
3件の発表のうち、用途を明確にしているのが、暗所でのオートフォーカス性能を高めたモバイル向けイメージセンサーである。ソニーセミコンダクタソリューションズとソニーセミコンダクタマニュファクチャリングのグループが開発した。
新構造を採用し、1ルクス(lux)という月明かりほどの環境でも、位相差検出方式のオートフォーカス(PDAF:Phase Detection Auto Focus)を安定して実行できるようにした(図1)。従来構造品では、同程度のPDAFを実行しようとした場合、ろうそくの火の明かりほどの約10ルクスが限度だったという。開発品の画素数は4800万で、サイズは1/2型。画素サイズは0.8µm角である。
このセンサーはまだスマートフォンなどに搭載されていないもよう。発表品は2020年のスマホにも搭載されそうだ。
従来型の長所を“いいとこ取り"
採用した新構造を、「2×2(ツー・バイ・ツー)OCL(On Chip Lens、オンチップレンズ)と呼ぶ(図2)。これは、現行のモバイル向けイメージセンサーで主流となっている2種類の構造の長所を「いいとこ取りした」(発表者のソニーセミコンダクタソリューションズの大川達也氏)ものである。暗所でのPDAFに向く、解像度が高い、ダイナミックレンジを広げるHDR処理に向く、といった特徴を備える。
数年の前のモバイル向けイメージセンサーでは、Bayer(ベイヤー)配列が一般的だった。現在のモバイル向けイメージセンサーでは、ベイヤー配列を基に、特性を高めている。「QBC(Quad Bayer Coding)」と「DPD(Dual Photo Diode)」の2種類に大別できる。ただし、QBCとDPDは一長一短がある。
それらの長所を取り込んだのが、今回導入した2×2OCLだ。2×2OCLでは、QBCのように隣接する4(2×2)画素が同色のカラーフィルターとなる。QBCとの違いは、この4画素をカバーする大きなオンチップレンズ1枚を載せる点である。
有機膜利用の新型センサー
3件の発表のうち、用途や目的、製品化の予定、実現技術の詳細などを一切明かさない、「謎」多き新型イメージセンサーがあった。ソニーセミコンダクタソリューションズが試作した、有機材料の光電変換膜を利用した「3層分光」型のイメージセンサーだ。
現在のイメージセンサーで一般的なベイヤー型は、同一平面上にR(赤色)G(緑色)B(青色)3色のカラーフィルター(画素)を形成し、水平方向で色を分離する。これに対して3層分光型は、同一平面上にRGBいずれかの色を割り当てた画素を並べた層を3色分、3層積層している(図3)。
垂直方向にRGBを割り当てるので、ベイヤー型に比べて解像度を高めやすい。ベイヤー型では一般に、同一色が隣にならないようにRGBを割り当てる。こうした配置に比べて、3層分光型の画素ピッチはおよそ半分になる。2019 IEDMで披露した試作品の画素数は700万で、画素ピッチは2µm。フレーム速度は60フレーム/秒とする。これらの仕様を見る限り、モバイル向けへの適用をにらんだものだとみられる。