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スマートフォン準大手に上り詰めた中国Xiaomiは白物家電で収益を大いに伸ばし、日本市場にも進出した。北米市場では白物家電ブランド「Instant Pot」「SharkNinja」が爆発的に成長している。これらの裏を支えているのは中国企業であり、連携の形態はもはや垂直統合でも水平分業でもない。新たな体制に迫った。

日本でも発売する「Mi IH炊飯器」
日本でも発売する「Mi IH炊飯器」
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 中国Xiaomi Group(小米、以下Xiaomi)がついに日本市場に参入した注1)。同社が2019年12月に発売を予告した炊飯器は、スマートフォンのアプリを通じた煮込み調理に対応。3mmと厚い内釜は熱ムラが少なく、外観は「無印良品」のようにスッキリしている。「おどり炊き」を三洋電機で開発した内藤毅氏も関与したという。こうした特徴を兼ね備えながら市販価格はわずか税別9999円だ。

注1)Xiaomiは販売代理会社のTJC(東京・墨田区)にモバイルバッテリーやスマートウォッチなどを卸してきたが、その市販価格は中国のものより格段に高く、薄利多売を追求するXiaomiの商法に即していなかった。Xiaomi創業経営者のJun Lei(雷軍)氏は2018年4月に「取締役会で決議した。ハードウエア事業全体の税引き後利益率は永遠に5%を超えない。もし超えたらユーザーに合理的な方法で返却する」と語っている。

 日本の白物家電メーカーが真に注意すべきは、こうした特徴のある白物家電を生み出した事業体制だ。一方で、北米にも新たな事業体制で成長し続ける企業はある。「Instant Pot」「SharkNinja」といったブランドを掲げる企業が、電気圧力鍋や掃除機などの競争環境を一変した。

 こういった動きは、白物家電向け部材を手掛ける企業が潜在顧客を再定義する必要に迫られていることを意味する。Xiaomi、Instant Pot、SharkNinjaなどは中国のEMS/ODM(電子機器の受託設計製造)企業によって大いに支えられており、時には部材選定さえ任されるからだ。

水平風味の垂直統合

 家電の事業体制は伝統的に2つに分類されてきた。1つは商品企画、設計、製造、販売の4要素をすべて1社が手掛ける「垂直統合」モデル。日本ではパナソニックや、2019年に1100億円の家電販売高を見込むアイリスオーヤマがこれを採用している。もう1つの事業体制は「水平分業」モデル。英Dysonや「Roomba」を手掛ける米iRobotといったブランド企業が商品企画と基本設計、販売を握り、量産設計と製造を台湾New Kinpo(新金寶)のようなEMS/ODM企業に任せる注2)

注2)New Kinpoは東南アジアでDysonやiRobotの商品を製造している。Dysonのほかの製造委託先は割当台数が多い順に、米系シンガポールFlexのマレーシア法人、マレーシアSKP(Sin Kwang Plastic)、マレーシアWentel、マレーシアV.S. Industryとみられる。一方iRobotについては香港Kin Yat(建溢)、米Jabil Circuit、中国BYD Electronic(比亜迪電子)の順と推測される。なおNew Kinpoの創業者は、大手EMS/ODM企業の台湾Compal(仁寶)に創業資金を提供した。

 ただし白物家電では「水平風味の垂直統合」というべき事業体制が多い。外注先が自社ブランドもEMS/ODMも手掛けているケースが少なくないためだ注3)。水平風味の垂直統合を拡張するため、中国Haier(海爾)は三洋電機から、中国Midea(美的、マイディア)は東芝からそれぞれ白物家電事業を買収した注4)

注3)両方を営める一因は、白物家電の仕様や売れ筋が地域によって異なること。ブランド企業A社は米国だけに出荷する。B社はA社のEMS/ODMを担いつつ、自社ブランド品を中国でのみ売る。こうすればA社とB社はバッティングしない。
注4)Haierは自社の上位ブランド「AQUA」を新設し「SANYO」を置き換え。三洋電機出身者にAQUAの日常業務を任せている。Mideaは欧州向け電子レンジにTOSHIBAブランドを付け始めた。Mideaは世界有数の電子レンジメーカーながら、欧州における知名度はゼロに近い。この対策にTOSHIBAを用いたとみられる。シャープについても、台湾Foxconn(鴻海)側で白物家電技術者が育つにつれて、水平風味の垂直統合体制に近づくだろう。これまでは旧シャープの生産拠点を整理するにとどまっている。

スタートダッシュのわけ

 もっとも、白物家電に対するXiaomiの事業体制は上記のいずれでもない。炊飯器を手掛ける中国Chunmi(純米)が素晴らしいスタートダッシュをどうやって決めたかを通じて体制を見てみよう1)

 楊華氏らがChunmiを設立した2014年、中国からの観光客が日本で炊飯器を爆買いする現象が見られた。XiaomiのスマホOSを開発する劉新宇氏(2015年~2018年2月までChunmi取締役)もその1人だった。

 Xiaomi幹部は劉氏や、米Motorola中国拠点を経てXiaomiに入社した楊氏にChunmiを設立させた。狙いは、日本ブランド並みの機能を備えた炊飯器を、中国ブランド品に近い価格で売り出すこと。楊氏も劉氏も炊飯器の技術には明るくなかったので、特許で名前を目にした内藤氏を誘った。日本の高級炊飯器を買いそろえ、内藤氏を招いて講義してもらった。

 転機は2015年1月に訪れた。XiaomiによるChunmiへの出資が完了したのだ注5)。Xiaomiは2014年に売上高が100億米ドルに達し、直販の実体店も増やしていた。店舗従業員が炊飯器を説明販売できる。Chunmiは入社候補者やサプライヤーからの信用や期待を一気に高めることができた。

注5)投資事業有限責任組合「天津金米」がシードラウンドに単独参加した。この投資資金は2019年12月時点でXaiomiが72%、残りをXaiomi幹部たちが提供している。

 内藤氏は2015年に機構設計責任者としてChunmiに正式入社。設計製造パートナーに中国DEA General Aviation Holding(德奧通航)がなった。同社は押しも押されもせぬ炊飯器のEMS/ODM企業。顧客は象印マホービン、タイガー魔法瓶、東芝ライフスタイルなどである。Xiaomiは2016年3月、炊飯器の第1世代機を発表。そしてChunmiの2017年売上高は2億人民元を超え、累計販売台数は2018年5月100万台を突破した。