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 プロ野球選手にとって毎年1月は、2月のキャンプインに向けて体作りなどをする重要な時期だ。米メジャーリーグ(MLB)のロサンゼルス・ドジャースで活躍する前田健太選手は2020年、自主練習に最先端のテクノロジーを取り入れた。下肢に障がいがある人や脚力が弱い人などへの補助機器として使われている、CYBERDYNE(サイバーダイン)の装着型サイボーグ「HAL」である。

装着型サイボーグ「HAL」を利用する前田選手(写真:日経クロステック、以下同)
装着型サイボーグ「HAL」を利用する前田選手(写真:日経クロステック、以下同)
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 HALは人間が発する脳神経系由来の生体電位信号を利用し、身体機能の補助・調整などができる製品だ。スポーツのトレーニング時に利用することで、アスリートの脳と神経の活動を直接捉えて身体機能の強化を図る。前田選手の目的を端的に言えば「脳を鍛えて理想的な身体の動きを覚え、パフォーマンスの改善につなげる」ことである。

 「脳神経系を強化・調整するアスリート向けのパフォーマンス向上プログラムは世界でもまだ類を見ない」。スポーツのトレーニング支援などを手掛ける一般社団法人のIWA JAPAN(東京・千代田)はそう訴える。同組織とCYBERDYNEは、アスリートのパフォーマンス向上を目的としたプログラム「IWA式Neuro HALプラス」を共同で開発した。同プログラムは、脳神経・筋肉系のパフォーマンスの向上、筋肉の収縮と弛緩の最適なタイミングやバランスの調整などにおいて優れた効果が期待できるとしている。

腰の部分に「HAL」を装着してトレーニングする前田選手
腰の部分に「HAL」を装着してトレーニングする前田選手
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脳を鍛えるトレーニングを公開

 ドジャースの前田選手は2020年1月17日、IWA JAPANが運営するスポーツ施設「IWA ACADEMY(アイダブリューエーアカデミー)」でトレーニングの様子を公開した。この日、前田選手が利用した機材は、腰に装着する「HAL腰タイプ自立支援用」と、足の関節部分に装着する「HAL自立支援用単関節タイプ 足関節アタッチメント」だ。

ロサンゼルス・ドジャースの前田健太選手

地下のトレーニング施設を利用。ボールを投げる様子。

 HALは以下のように動作する。(1)装着者の脳から動作意思を反映した生体電位信号が神経を介して筋肉へと伝達する、(2)HALが皮膚表面に出てくる微弱な生体電位信号(乾電池の電圧と比較して千分の1から十万分の1)を検出する、(3)生体電位信号や運動情報に基づいて、HALが各関節のパワーユニットを制御する。それによって装着者の意思に沿った動きを補助すること、普段より大きな力を出すことが可能になる。

 こうした動作のフィードバックが脳に届くことで、脳は身体がどんな信号でどう動作したのかを確認・学習していく。HALのポイントは生体電位信号を肌から素早く検出して、ほぼ遅延なく身体を補助できることである。

 このHALをトレーニングに導入することで、筋肉の弛緩・収縮の最適なタイミング、バランスなどの感覚を身に着けられる。つまりHALの支援によってどう筋肉を動かせばいいのかなど脳と身体の「使い方」を自ら改善できるわけだ。