電子契約サービス「WAN-Sign(ワンサイン)」を提供するワンビシアーカイブズは、建設業界の企業が同社のサービスを利用して工事請負契約を結ぶことについて建設業法上、適法だとする国土交通省の回答を受け取ったと発表した。実は同省が電子契約について同じ回答をしたのは6度目だ。
ワンビシは国交省の回答を得るために経済産業省の「グレーゾーン解消制度」を活用した。グレーゾーン解消制度とは、法規制が適用されるか不明確な新事業を企業が始める際に、あらかじめ規制適用の有無を確認できる制度だ。ワンビシは窓口となる経産省を通じて国交省から適法だとする2019年12月26日付回答書を受け取った。
同社は2019年9月に同制度を利用する申請を経産省に提出した。ところが経産省は当初「技術的に適法だという照会は既にしているので、WAN-Signについてわざわざ回答する必要はない」として受理を渋ったという。既に工事請負契約に電子契約を利用するのは建設業法上、適法とした同じ回答を5回出していたためだ。それでもワンビシがグレーゾーン解消制度で回答を求めたのには理由がある。
「グレーゾーン解消制度」が営業ツールに
ワンビシのWAN-Signは2019年3月に開始したばかりの電子契約サービスだ。同社はもともと主に金融機関向けに重要書類を保管するサービスや、契約・申込書類などを預かって物理的に管理して必要な時に閲覧できるようにするサービスを手掛けてきた。
ワンビシの顧客企業のなかには書面の契約書を扱う場合は契約書の原本を預ける一方で、電子契約を結ぶ際は他社のサービスを利用するなどと使い分けている例があるという。全ての契約を電子化するのは難しいうえに、過去の契約書面を電子化するにも手間がかかるためだ。
そこでワンビシは膨大な書類の管理ノウハウに加えて、電子契約も一元管理できるサービスとしてWAN-Signを始めた。GMOクラウドが提供する「GMO電子契約Agree」とGMOグローバルサインの認証サービスを活用している。現在の利用企業数は無料プランを含めて約100社ほどで、口座開設申込書などの書類を預ける金融機関の利用が4分の1ほどを占めるという。
一方、建設業界でも契約書面を安全に電子化したいというニーズが高まっている。建設工事は請負契約の単価が巨額だ。企業にとって万が一契約が無効と言われてしまうとリスクが大きい一方、契約額が大きいために1件当たりの契約書に必要な印紙税も数十万円に上る。電子契約を利用すれば印紙税が不要になり、大幅なコスト削減につながるからだ。
建設業界の契約書を電子化するサービスは続々と登場している。弁護士ドットコムは2018年1月、同社が提供する電子契約サービス「クラウドサイン」についてグレーゾーン解消制度を活用して建設業法の適法性を確認したと公表した。これを受けて国交省に同じ回答を求める電子契約サービス会社が続出した。
経産省がWebサイトで公表しているグレーゾーン解消制度の活用実績によると、クラウドサインに続いて2018年11月にドキュサイン・ジャパン、同年12月にはインフォマート、2019年8月にラディックス、同年10月にはコンストラクション・イーシー・ドットコムが同じ内容の回答を得ている。
ワンビシはWAN-Signのサービス開始当初、グレーゾーン解消制度を利用する必要はないと考えていたという。技術的な仕組みは既に回答を得ている他社の電子契約サービスと同じものだからだ。認証サービスの電子署名を利用する場合はより高い信頼性を確保できる。紛争が起きた場合でも電子署名法や電子帳簿保存法の手順に従っていれば契約内容を改ざんされていないと確認できるため、金融機関の利用が増えている。