電気自動車(EV)用駆動モジュール「電動アクスル(イーアクスル)」の戦いの火蓋が切られた。モーターとインバーター、減速機を一体化させたEVの心臓部ともいえるコア部品の市場競争である。電動アクスルを造る企業が世界に200社もあるともいわれる中、“先制攻撃”を仕掛け、他社を一歩リードするのが日本電産だ。
「多少無理でも全て受けろ」──。こう社内に号令を発したのは、同社会長(最高経営責任者)の永守重信氏だ(図1)。いち早く電動アクスルにビジネスの将来性を感じ取った同氏は、とにかく自動車メーカーから引き合いがあったら、それらを全て受注せよと社内に厳命を下した。
2020年1月中旬には、新規に開発した出力200kWの電動アクスル「Ni200Ex」と50kWの「同50Ex」を公開(図2)。これにより、既に発表している70kWの「同70Ex」と100kWの「同100Ex」、150kWの「同150Ex」を合わせて、同社は5機種の電動アクスルをそろえた。
車両セグメントの98%をカバー
なぜ5機種なのか。軽自動車タイプの小型EV向けから大型のSUV(多目的スポーツ車)ベースのEV向けまで、自動車メーカーが求める電動アクスルを全て供給できるようにするためだ(図3)。具体的には、50kWの電動アクスルで「軽自動車タイプ/Aセグメント」を、70kW品で「A/Bセグメント」を、100kW品で「B/Cセグメント」を、150kW品で「C/Dセグメント」を、200kW品で「D/Eセグメント」をカバーする。200kWを超える大型EVには前後輪に1つずつ、すなわち2個の電動アクスルを搭載する。これにより、400kWの出力を要する大型EVにまで対応できる計算だ。
この算盤(そろばん)により、日本電産は「世界の98%の車両セグメントを網羅する」と胸を張る。パソコン分野の「インテルインサイド」にあやかり、「BEV(バッテリーEV)分野のニデックインサイドを狙う」(日本電産)と鼻息が荒い。
大言壮語と一笑に付せないのは、「5機種全ての電動アクスルが、既に自動車メーカーの受注を得ている」(同社)からだ。それらのEVの発売時期に合わせ、2020年に100kW品を、2021年に70kW品を、2022年に50kW品を、2023年に200kW品を量産する計画を日本電産は立てている(図4)。中国の自動車メーカーを筆頭に、欧州の自動車メーカーからも多くの受注があるというが、驚くのは「日本の全自動車メーカーから話が来ている」(日本電産)ことだ。系列外の取引である「脱ケーレツ」が現実になりつつあると同社は感じているようだ。