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 中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が世界的に拡大している。中国政府の発表によれば2020年2月6日午前0時時点(現地時間)で感染者数は2万8018人、死者は563人に達した。フィリピンや香港でも死者が出た。

 事態の収束に向け、人工知能(AI)など最新のデジタル技術の活用に期待が集まっている。中国工業情報化部(日本の省に相当)は中国国内のAIセクターに対し、新型肺炎と戦うために技術の力を貸してほしいと要請した。スマート端末による診断や治療、人々の生活の破壊を最小限にとどめるための在宅勤務やオンライン教育、薬やワクチンの開発を支援するためのアルゴリズムの最適化、計算能力の強化などにおけるAI活用の提案を求めた。

 既にAIによる医療画像診断支援システムが新型肺炎の診断の現場で使われている。2015年に創業した中国のAIスタートアップ企業、インファービジョン(北京推想科技、Infervision)は2020年1月31日、同社のAI診断支援ソフトウエアに新型肺炎の画像診断支援機能を追加した。

 新型コロナウイルスに感染すると、無症候の状態でもコンピューター断層撮影装置(CT)画像ですりガラス状の陰影や白くべったりとした湿潤影といった肺炎特有の陰影が出現するといわれる。AIが肺のCT画像を読み取り、2分程度で新型コロナウイルスへの感染が疑われる部分を見つけだす。

 同社によると「1000の症例で調べたところ精度はほぼ100%。正確さを示す指標の1つである特異度(陰性のものを正しく陰性と判定する確率)は80%以上。AIがデータを日々学習し、精度は向上している」という。インファービジョンのAI診断支援ソフトウエアは現在、中国国内で300以上の病院が導入済み。新型肺炎の診断支援機能を導入した病院は10以上、2月6日までに2300人の新型肝炎に関する診断支援に使われた。

インファービジョンが開発した、新型コロナウイルスによる肺炎のAI診断支援システム
インファービジョンが開発した、新型コロナウイルスによる肺炎のAI診断支援システム
(出所:インファービジョン)
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アウトブレイク時の医療現場の問題に対応

 同社の創業者である陳寛CEO(最高経営責任者)によると、今回のAI診断支援システムで解決できる問題は3つある。

 1つ目は、新型コロナウイルスによる肺炎のアウトブレイク(突発的な発生)で中国国内の病院には感染が疑われる人が殺到しており、中には重症の肺炎患者もいれば感染していない人もいるという問題だ。緊急ケアが必要な重症患者を見分け、重症度や緊急度に応じて治療の優先順位をつける「トリアージ」が重要になる。

 一般に放射線科医によるCT画像の読影には15~20分かかる。画像の取得から読影、リポートの作成、患者が列に並んでリポートを受け取るまで数時間。その間、患者や臨床医は病院の通路などで待たなければならない。AI診断支援システムを使えば2分程度で感染が疑われる人が判明するため、その人を優先的に診断・治療できるわけだ。感染が疑われる人を別の場所に移すことで、非感染者への院内感染も防げる。

 2つ目は、医師が膨大な数の新型肺炎患者を相手に昼夜問わず働いており、患者の病状の変化を詳しく見ている余裕がないという問題だ。治療に当たっては患者の症状が回復しているか悪化しているかの見極めが不可欠だが、医師の肉体的な疲労や精神的なストレスから、CT画像のわずかな変化を見落としてしまうこともあり得る。AI診断支援システムを使えば大量のCT画像の中から同じ部分を表示し、同じ患者の以前と現在の陰影の大きさや密度などを比較することも容易だ。