日経クロステックと日経BP 総合研究所は共同で、米テスラの電気自動車(EV)、「テスラ モデル3」および「同モデルS」を分解・分析した。ここで見えてきたのは、従来のしがらみを持たない企業ならではの先進的な車両アーキテクチャーである。ECU(電子制御ユニット)の激減、メーターやヒューズの省略など、さまざまな部品で“クルマ造り”の常識を崩す。
2020年1月22日、EVメーカー、Tesla(テスラ)の時価総額が1000億米ドル(約11兆円)を突破した。この結果、同日の終値で900億ユーロ(10兆997億円)の独Volkswagen(フォルクスワーゲン、VW)を超え、自動車メーカーの時価総額ランキングでトヨタ自動車に次ぐ世界2位になった。
2019年の年間販売台数が1100万台に迫るVWに対して、40万台弱にとどまり、今なお赤字のテスラが、なぜこれほどまでの高い評価を受けるのか。それは、100年に1度といわれる自動車業界の変革期において、テスラが市場をリードしているとみられているためだ。
既存の自動車メーカーは、これまでの車両を開発するために最適化された開発体制や生産体制を持つ。ところが変化の時代においては、これらが足かせとなり新しい技術や、現業を破壊するような施策に手を出しづらい。一方、しがらみのないテスラは、常識にとらわれない自由な発想でクルマ造りをしている。
日経クロステックと日経BP 総合研究所が共同で行った「テスラ モデル3/モデルS」の分解・分析プロジェクトで見えた、テスラの先進性を解説する(図1)。
【先進性1】
5枚の基板で車両を動かす
テスラの先進的な取り組みとして筆頭に挙げられるのが、モデル3のシンプルなアーキテクチャーだ。車両を制御する主要な基板はわずか5枚。一般的な車両では、数十もの基板がある。ドアやパワーステアリング、エアコンなどの機能ごとにECU(電子制御ユニット)があるためだ。
モデル3の5枚の基板とは、ボディーコントローラー3枚、オートパイロットECU1枚、MCU(メディアコントロールユニット)1枚である(図2)。ボディーコントローラーは、ライトやドアなどいわゆる電装品を制御する役割を担う。オートパイロットECUはカメラやミリ波センサーなどを活用して、運転支援機能を提供する。MCUは、タッチパネル式ディスプレーを通じて、ユーザーインターフェースを提供する。
この3つの機能が連動することで、モデル3の車両は動作する。例えば、タッチパネル式の液晶でドアのロックを指示すれば、MCUがボディーコントローラーに依頼を送り、ボディーコントローラーがアクチュエーターを動かして施錠する。オートクルーズなどの機能はオートパイロットECUで周辺環境を判断し、制御をボディーコントローラーに依頼して、操舵や速度制御が実行される。
こうしたシンプルな構造にしたのは、(1)コスト削減、(2)開発のしやすさ、(3)システムアップデートの容易さ、を狙ったためとみられる。ECU数が減るほどコストは下がるし、シンプルな構造であれば、個別の機能とのすり合わせが不要になり開発がしやすい。さらに、テスラの車両の先進性として、無線通信によるシステムのアップデートがあるが、これを実現するためには、中央集権的なアーキテクチャーの方が実施しやすい。ECUが分散していると、個別にバージョンアップをしなければならないし、システムの検証も組み合わせが多くなると大変になる。
モデル3の中央集権的な仕組みは、これまで以上に部品メーカーの自由度を奪う。このことに自動車部品メーカーは危機感を持つべきだろう。