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 日本の自動車業界で“独り勝ち”状態の今、トヨタ自動車が大胆なリストラクチャリング(リストラ)を断行する。1982年にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が合併して以来、38年間続いていた「副社長」のポストを廃止し、従来の執行役員と同格にした新たな「執行役員」に一本化する注1)。組織階層をスリム化し、「グローバルトヨタとして最適な視点で経営を考える体制」(同社社長の豊田章男氏)に変える。同社は2020年4月1日から新組織体制への舵(かじ)を切る。

注1) 執行役員の中には、役割をより明確にした「チーフオフィサー」「カンパニープレジデント」「地域CEO」「各機能担当」を設定する。ただし、役割は固定せず、その時々で適任者を配置する。

 トヨタ自動車はこの10年で組織階層のスリム化を進めてきた。2011年には取締役会の人数を27人から11人に減らし、専務取締役を廃止。さらに2017年には取締役会の人数を9人にまで削減し、2019年には専務役員と常務役員のポストを廃して「幹部職」とした。今回の組織体制の変更により、管理職以上の階層は「課長」「幹部職」「執行役員」「社長」の4階層になる。従来は「課長」「次長」「部長」「常務」「専務」「副社長」「社長」の7階層だったから、半数近くまで絞ったことになる。

トヨタ自動車社長の豊田章男氏
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トヨタ自動車社長の豊田章男氏
副社長ポストを廃止し、執行役員に1本化する組織体制の変更を図る。好業績時に大胆な組織変更を断行する背景には、これからの同社に対する危機感があるとみられる。(写真:トヨタ自動車)

現場の情報伝達が遅すぎる

 なぜトヨタ自動車は組織階層のスリム化を急ぐのか。考えられる最大の理由は、[1]経営スピードの向上だ。「社長が現場の声をいち早く聞き、迅速な経営判断を行うため」と、トヨタ自動車出身で現在愛知工業大学客員教授の藤村俊夫氏は言う。開発や生産、販売といった各部門の現場を取りまとめ、最も市場に近い情報を把握するのは課長だ。その「鮮度の高い情報」を、迅速に社長まで伝えるには組織をできる限りフラットにした方がよいという判断が社長の豊田氏にはあったのだろう。

 新しい組織体制であれば、課長が持つ情報はわずか3階層で社長に伝達できる。これに対して従来は、課長から6階層を経なければ情報が社長まで伝わらなかった。決済回数が増えるため時間がかかって情報の鮮度が落ちる上に、現場の“生の声”がそのまま伝わらない可能性もあった。このままでは社長の経営判断が遅くなり、ますます加速する市場の変化に追従できなくなる危険性がある。

 この組織変更でトヨタ自動車はどれくらいのスピードアップを狙うのか。藤村氏は「最低でもスピードを2倍にしないとダメだろう」とみる。例えば、開発部門では現在、開発期間を1/2に短縮する目標を掲げる製品がある。この速さに対応するには、社内のあらゆるスピードを2倍以上に速めなければならないというわけだ。

組織階層の変化
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組織階層の変化
上が従来の組織体制、下が新しい組織体制。新しい組織体制では、課長から社長までの階層を従来の7から4まで減らした。また、若い執行役員が誕生しやすくなる。(作成:日経クロステック)

60歳代の役員では戦えない

 トヨタ自動車が組織階層のスリム化を急ぐもう1つの大きな理由は、[2]経営陣の若返りだ。現在、同社の副社長は60歳以上が占めている。だが、海外のグローバル企業やテックカンパニー(IT企業)では40歳代前半の役員は珍しくない。世界のビジネス環境を考えると、実力があって発想力に富む若い人材が経営のより重要なポストで活躍する会社にしないと、トヨタ自動車は早晩、立ち行かなくなる可能性がある――と豊田氏は危機感を抱いたのだろう。

 新しい組織体制では、課長からわずか2階層で執行役員に昇格できる。「早ければ4~6年で執行役員に昇進できる可能性があるのではないか」と藤村氏はみる。

 トヨタ自動車は最近、以前よりも積極的に社員を関連会社などに出向させている。これは人材育成の強化の一環で、いわゆる「天下り」ではない。社内にとどまっているだけでは“井の中の蛙(かわず)”になりがちで、視野の広い人材が育ちにくくなってきたという。そこで、比較的若いうちに社外の仕事を経験させ、広い視野を持ち発想力に優れる人材を育てる狙いがこの施策にはある。

 こうして出向先からトヨタ自動車に戻ってきた人材のうち、実力も広い視野も持ち合わせ、かつ高い発想力を兼ね備えた人材が4~6年で執行役員に昇格すれば、40歳代で経営陣に加われる可能性がある。若くして執行役員になれば、経営メンバーとしてより長い期間活躍できる。定年までの年数が短い年齢で役員になっていたこれまでの組織制度とは大きな差だ。このため、新しい組織体制への変更は「若い社員にとってチャンス。モチベーションが大きく上がるだろう」(藤村氏)。

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