全2388文字
PR

 ハードウエアやインターネットサービスが主役を張っていた「CES 2020」(2020年1月7~10日、米国ラスベガス)において、ひときわ異彩を放っていたのが初出展のNTTだ。同社は、2019年に提唱したコンセプト「IOWN(アイオン)」をひたすら訴求していた。

CES 2020のNTTブース(写真:日経クロステック)
CES 2020のNTTブース(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 IOWNはInnovative Optical and Wireless Networkの頭字語。Optical(オプティカル)という単語があるように、これまで電気通信が主流だった領域を光通信で置き換え、5G(第5世代移動通信システム)に代表される無線通信と併せて、より高速・大容量・低消費電力の通信ネットワークを実現しようという壮大な構想である。既にバックボーンでは光通信が当たり前になっているが、それをオフィスや工場などのローカルネットワーク、さらには機器内の基板や半導体チップといった末端にまで“オプティカル”を張り巡らせることを狙う。高速化に関しては遅延を現行の1/200に、大容量に関しては通信容量を同125倍に、低消費電力に関しては同1/100を目標に掲げる。

 例えば、同社がCES 2020で展示していたシリコンフォトニクスはIOWN構想の実現に不可欠と位置付ける技術の1つ。シリコンウエハー上に光デバイスや電子デバイスを高密度に形成することで、光-電気変換の損失が減り、大幅な小型化や低消費電力化が見込めるという。

NTTがCES 2020で展示したシリコンフォトニクス適用例(写真:日経クロステック)
NTTがCES 2020で展示したシリコンフォトニクス適用例(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 とはいえ、メーカーではないNTTが単独で半導体チップや基板といった末端の光通信化を進めるのは難しい。そこで同社は、ソニーや米インテル(Intel)と共同でIOWN構想を推進するフォーラム「IOWN Global Forum」の設立を発表。その後も、国内外のメーカーやIT企業などから賛同を得られたという。CES 2020の開催前までに122社が参加表明を示したといい、開催期間中にも新たに20社程度の上積みがあったようだ。そのうち約4割が海外企業だという。同フォーラムでは2024年までにIOWN構想に関する「基本仕様」を策定し、各業界に採用を働きかける。

産業別ネットワークが台頭

 NTTがIOWNでネットワークの“再編”に挑むのは、現状のインターネットでは産業界の多様なニーズに応えられないという認識を持っているからだ。その象徴的な例として、同社取締役研究企画部門長の川添雄彦氏はIoT(Internet of Things)を挙げる。かつてインターネットにつながる機器はPCやサーバーなどのコンピューターに限られていたが、今やIoTという形であらゆる機器がインターネットにつながるようになった。その中には、インターネットの基本的な通信プロトコルであるTCP/IPが適しているとはいえない事例が増えていると同氏は指摘する。

NTT取締役研究企画部門長の川添雄彦氏(写真:日経クロステック)
NTT取締役研究企画部門長の川添雄彦氏(写真:日経クロステック)

 伝統的なコンピューター間通信でも、金融や医療など要求が厳しい分野では、同様の問題が見られるという。例えば、証券業界でたびたび起きる株式の誤発注についても、TCP/IPベースの通信プロトコルでは誤発注の取り消しに多大な手間がかかるが、株式の発注業務に最適化した通信プロトコルを採用することで問題を解消できるとNTTの川添氏は語る。実際、金融業界からはそうした要望が寄せられているという。

 つまり、インターネットという単純なネットワークにIoTなど多様なプレーヤーが殺到したことで、インターネットの限界が顕在化してきたともいえる。「もしかしたら、IoTはインターネットの終わりを意味しているのかもしれない」(川添氏)。その代わりに浮上してくるのは、個別の用途に合わせて最適化したネットワーク(用途別ネットワーク)だという。

 川添氏の言う「インターネットの終わり」とは、既存のインターネットがなくなるということでも、用途別ネットワークを物理的に構築するということでもない。インターネット上に、多数の用途別ネットワークが仮想的に共存するという意味だ。そして、それを実現するための技術的なアプローチが、光通信による高速化や低消費電力化を前面に押し出したIOWN構想ということになる。IOWNのフォーラムでは、このような用途別ネットワークの基本仕様についても議論を進める。