トヨタ自動車とNTTが、「スマートシティー」事業で手を組んだ(図1)。約2000億円を相互出資し、業務資本提携する。スマートシティー事業を巡っては、米グーグル(Google)系をはじめとするIT企業が先行。トヨタ・NTT連合の成否は、Googleの弱点を突けるかどうかにかかる。
「“お国のために”という意志を持ち、未来を創造する技術力と人間力を持った民間企業が決起することが大切だ。(スマートシティーの)プラットフォームを作り、世界に対して日本の存在感を高めていく」――。
2020年3月24日に開いた記者会見で、トヨタ社長の豊田章男氏は意気込みを語った(図2)。明言こそしないが、同氏の念頭にあるのはGoogleだろう。豊田氏と並んで会見に臨んだNTT社長の澤田純氏は、「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)対抗という意識は大いにある」と断言した(図3)。
スマートシティーとは、自動車や公共サービス、医療などでデータを軸に連携し、便利にする構想。トヨタは2020年1月、静岡県裾野市で「Woven City」(ウーブン・シティ)」と名付けたスマートシティーの建設を2021年初頭に始めると発表した。一方でNTTは、2018年から米国ラスベガス市でスマートシティーの開発に取り組んでいる。
トヨタ・NTT連合がスマートシティー事業でGoogleと競合するのが、都市のデータを収集・管理するプラットフォーム(基盤)である(図4)。一般に「都市OS」などと呼ばれるものだ。都市OSを握る企業が、「データ時代」の競争を制する。
Google陣営は2015年にサイドウォーク(Sidewalk Labs)という会社を設立し、都市OSの構築を一足先に進める。IT業界の雄らしいスピード感だが、弱点も見えてきた。都市データの収集に野心を見せすぎて、プライバシー面で市民の強烈な反発を受けた。プロジェクトは当初の予定から遅れ、まだ建設を始められずにいる。開発規模も縮小された。
「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」ことを社是とするGoogle。データの囲い込みに伴うプライバシーの問題は、アキレス腱になりつつある。スマートフォンからモビリティー、都市の再構築へと事業の軸を移すのに合わせて、公共性が格段に高まるためである。公共事業に近づくほど、人々の生活に密着する。プライバシー問題は、人権問題に直結する。