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 塩野義製薬は2020年3月30日、中国平安保険グループとの間で資本業務提携に関する基本合意書を締結したと発表した。7月末までをめどに、中国平安保険またはその子会社との間で、塩野義51%、中国平安保険49%の出資比率で合弁会社を設立するとともに、中国平安保険の子会社である中国平安人寿保険に対して第三者割り当てによる自己株式処分を行う。第三者割り当てを行う株式数は発行済み株式の約2%に相当する635万6000株で、塩野義は対価として中国平安保険から335億円を受け取る。

会見に臨んだ塩野義製薬の手代木功社長
会見に臨んだ塩野義製薬の手代木功社長

 中国平安保険は中国深センに本社を置く保険会社。株式時価総額は1700億ドル(約19兆円)を超え、ドイツのアリアンツやフランスのアクサを上回り、保険会社としては世界第1位だ。馬明哲会長が1988年に起業し、保険事業を皮切りに、銀行事業、投資事業、インターネット金融などへと事業を拡大して、一大金融コングロマリットを築き上げてきた。2019年12月末時点で総資産額は126兆円に達する。

 同社のここ数年の事業拡大を支えているのは、クラウドコンピューティングやブロックチェーン、生体認証、ビッグデータ、人工知能(AI)などの「テクノロジー」だ。2013年ごろから、これら技術の研究開発に積極投資をする一方、金融サービス以外に、自動車サービス、不動産サービス、ヘルスケア、スマートシティの4分野に焦点を当て、各分野でテクノロジーをベースにして多様なサービスを提供する体制を構築してきた。

 ヘルスケア関連では、2014年に医療アプリ「平安好医生」を運営する平安健康医療科技を上海市に設立。平安好医生は現在、中国で最大のオンライン診療のポータルであり、2億8000万人のユーザーが登録している。ユーザーはスマホアプリを通じて、AIや医師によるオンライン診療を受けることができ、一般用医薬品(OTC)や化粧品、ヘルスケア関連製品などを購入できる。このアプリの他に、オンラインを通じてAIや医師の診察を受けた上で、自動販売機で薬を購入できるようにした無人診療所の「ワンミニッツ・クリニック(一分鐘診所)」を中国各地に開設してもいる。

 また、平安健康医療科技はオンライン診療を提供するだけでなく、リアルな医療機関に対して、システムや人材・教育、共同購買、金融などのサービスを提供する事業も展開している。中国内にある診療所6万カ所が登録し、集客・送客、支払い管理なども含めたサービスを利用しているという。さらに、中国平安保険グループでは民間医療保険を提供したり、政府が運営する公的健康保険にシステムを提供したり、中国全土に健診センターの整備を進めたりと、ヘルスケア関連で多重のサービス提供体制を整備しつつある。

 塩野義が、その中国平安保険グループとの合弁でまず行おうとしているのは、中国とアジア市場における(1)リアルワールドデータなどに基づくデータドリブンの後発薬、一般用医薬品を含めた医薬品の開発、(2)AIを利用した医薬品の製造・品質管理体制の構築、(3)オンラインやリアルのクリニックなどを活用した医薬品の販売・流通プラットフォームの構築だ。

 要するに中国平安保険グループが有する顧客の健康・医療情報、AIなどの技術、オンライン診療などのプラットフォームを活用しながら、塩野義が有している医薬品やその候補化合物を、中国・アジア市場に展開していこうというわけだ。塩野義が中国平安保険から得る335億円の資金は、新薬開発権の取得、製造・品質管理体制の構築、販売・流通体制の構築などに充てる計画だ。今回の提携を通じて、塩野義はIT、AIを活用した創薬のプラットフォームを、中国平安保険は創薬事業に乗り出す機会を手に入れる。

 合弁会社では、医療用医薬品だけでなく、一般用医薬品や診断薬、ワクチンなどの開発も手掛けていく計画だ。開発した製品は、まずは中国で販売していくが、アジアやアフリカへ展開していくことも計画している。

 構想は恐らく医薬品事業の延長上にはとどまらないだろう。例えば、平安好医生というオンライン診療アプリに2億8000万人が登録しているのは、医療のインフラ整備が遅れた中国で新しいテクノロジーに国民が飛びついた結果であり、キャッシュレス化が急ピッチで普及したことにも通じる現象だ。つまり、中国平安保険グループは、中国の医療・ヘルスケア分野で、患者と医療機関、保険支払者向けの各種サービスを提供しながら、そこで発生する大量の情報を活用して効率的なヘルスケアシステムを追求できるポジションを築いてきた。

 欧米先進国が構築してきた医療・ヘルスケアシステムに、医療費高騰、医療保険財政の悪化といった綻びが見える中で、塩野義は中国平安保険グループとの合弁を通じて、中国・アジア市場における新しい医療・ヘルスケアシステムの構築という社会実験に参加する立場も手に入れた。中国平安保険グループとともに、より効率的な医療・ヘルスケアシステムを構築できれば、アジア、アフリカなど医療インフラが未整備な社会に貢献していける──。30日の会見の冒頭、「久しぶりにわくわくしている」と語った手代木功社長の胸の内には、そんな思いがあったに違いない。

 もっとも、新会社で具体的にどのような事業を行っていくかについては、7月に改めて説明するとのことだ。手代木社長が「超長期的な戦略的提携」と語るこの枠組みがどんな方向に発展していくのかに注目していきたい。