世界中の国や地域が新型コロナウイルス感染の拡大防止に追われるなか、台湾の「マスク配布システム」が一躍脚光を浴びている。仕掛け人の1人が台湾当局のデジタル担当政務委員(閣僚級)であるオードリー・タン(唐鳳)大臣だ。
タン大臣は1981年4月生まれの38歳(取材時)。Webの登場とともに独学でプログラミングを学び、米シリコンバレーで起業した経歴もある。「天才プログラマー」とも称され、2016年10月から台湾の行政サービスのデジタル化を担っている。
マスク不足に対処するため台湾がいち早く導入したマスク配布システムは、台湾の行政サービスが日本よりもITを効果的に活用している事実を知らしめた。2020年3月には東京都が公開している「新型コロナウイルス感染症対策サイト」のソースコードについて、タン大臣が自らソフト開発支援のオンラインプラットフォーム「GitHub」で翻訳を修正した。インターネットで「タン大臣が降臨した」と話題になった。
タン大臣が担う台湾当局のデジタル行政はなぜ先進的なのか。日経クロステックはシンクタンクの行政情報システム研究所と編集者の若林恵氏によるタン大臣へのオンラインインタビューに加わる形で、日本を含む世界のITエンジニアへの期待を語ってもらった。
台湾当局のマスク配布システムは、健康保険を担当する「中央健康保険庁」がマスクを販売する薬局の30秒ごとの在庫データをCSV形式でネット公開したことに始まる。このデータを使って、多数の企業や技術者がマスクの在庫がある薬局を地図上に表示するアプリなどを次々と開発して公開した。
利用者はICチップ内蔵の「全民健康保険カード(NHIカード)」を薬局に示せばマスクを購入できる。2020年3月には専用WebサイトにNHIカードを登録して携帯電話でマスクを注文すると近隣のコンビニエンスストアで受け取れる「eMask 2.0」と呼ぶサービスも開始した。
行政のデジタル化を支える「シビックテック」
マスク配布システムはタン大臣が単独で作り出したものではない。ITで社会課題の解決を目指す「シビックテック」と呼ばれる取り組みを進めているコミュニティー組織「g0v(ガブゼロ)」の存在が大きい。g0vは行政組織でも企業でもない「市民」の立場からITを駆使し、様々な地域の課題を解決する技術者らボランティアによる組織だ。