今、日本の電源メーカーが開発した斬新な無線給電(ワイヤレス給電)システムに、国内外の様々な企業が関心を寄せている。そのワイヤレス給電システムとは、ベルニクスの「POWER SPOT(パワースポット)」だ。
同社はその試作品として、送電(1次)側端末の「HOME」、および受電(2次)側端末の照明器具「LUX」、飲料保温容器「MUG」「CHOCO」を開発。展示会などを通じて提案したところ、自動車や家電、住宅、家具、オフィス機器、アウトドア用品、外食、不動産、教育機関など幅広い業界から引き合いがあった。「まだ名前は明かせないが、そうそうたる企業と試作品の共同開発を進めている」(同社代表取締役社長の鈴木健一郎氏)。順調にいけば、2020年10月20~23日に幕張メッセ(千葉市)で開催される「CEATEC 2020」でそれらの試作品を一斉に披露するという。
回すだけでオン/オフ制御
POWER SPOTでは、低~中出力帯のワイヤレス給電システムで一般的な電磁誘導方式を採用した。その特徴は、本来の機能であるワイヤレス給電にとどまらず、通信機能やインターフェース機能も兼ね備えていることだ。これらの機能によって、「機器メーカーやサービス事業者などが最終ユーザーに新しい体験を提供できるようになる」(ベルニクスの鈴木氏)。
通信機能は、送電側端末や受電側端末にBluetoothモジュールを搭載することで実現した。POWER SPOTでは、各端末に固有のIDを割り振れる。そのため、通信機能によって相手の端末を認識した上で、特定の端末にだけ給電を許可したり、給電状況を把握したりすることが可能だ。「カフェの会員限定充電サービスなどきめ細かいサービスを設計できる」(同氏)。給電する端末を選べるので、安全性も確保しやすい。
インターフェース機能とは、給電のオン/オフや出力の増減などを制御する機能を指す。前出の試作品でいえば、LUXでは回すだけでオン/オフや明るさの調整、MUGやCHOCOでは温度の調整ができる。しかも、右に回すとオンまたは出力増、左に回すとオフまたは出力減という直感的な操作体系を採用した。受電側端末に搭載したジャイロセンサーで回転方向や回転量を検出し、Bluetooth通信で送電側端末に伝える。受電側端末を直接操作しなくても、スマートフォンでの操作を可能にするためのアプリも開発中だ。
市場そのものを一緒に創出
低~中出力帯のワイヤレス給電では、ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)の策定した国際標準「Qi(チー)」が先行している。QiはPOWER SPOTと同じ電磁誘導方式で、出力が5~15Wの規格(Volume I: Low Power)に対応したシステムがスマホを中心に普及している。一方、POWER SPOTではより大出力の同15~50Wの領域を狙う。この領域を開拓すれば、ワイヤレス給電の用途が一気に広がるからだ。「50Wあれば、ノートPCの充電や照明器具への給電ができるし、熱でお湯を沸かせる」(ベルニクスの鈴木氏)。