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 「安い」「これなら中国へ行くよ」「有期雇用でこの待遇なら2000万円は出してほしい」――。インターネットの掲示板がある話題で荒れた。匿名故に遠慮のない言葉、時には暴言まで飛び交う。その話題とは「パナソニックが募集するAI(人工知能)人材の待遇」である。

 同社は「高度技術人材コース」を2020年3月から開始した(図1)。高度な専門性を持つ人材を対象に、新卒・中途を問わず採用する新制度だ。募集職種には「AI技術・データ分析技術研究開発者」「Deep Learning組み込み技術」「クラウドシステム設計・開発技術」などが並ぶ(2020年4月上旬時)。パナソニックはAI技術やデータ分析、クラウドシステムなどの開発強化を図るため、基本的に博士号を保有する専門性が高い人材の獲得を目指す。

図1 パナソニックが掲載する募集要項の概要
図1 パナソニックが掲載する募集要項の概要
雇用形態、給与などが示されている。(出所:パナソニック)
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 さまざまな製品・サービスでIoT(Internet of Things)・AIの利用が進んでおり、業界を問わず数多くの企業がAI人材を求めている。パナソニックも例外ではない。新採用制度は、「AI技術を望む開発現場からの要請に応えたもの」(同社)だという。

「GAFAなら3000万円なのに」

 ネットを騒がせたのは、「年収750万~1250万円、常勤嘱託社員、雇用期間は最長5年」という待遇だ。米国のIT企業である「GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)」なら、「新入社員でも年収3000万円が支払われる」とも言われるほど、AI人材の市場価値は高まっている。

 NECや富士通なども大幅な待遇向上を打ち出している。NECは2019年10月から「選択制研究職プロフェッショナル制度」を開始。9人の社員に同制度を適用した。富士通は若手が卓越した成果を残せば、年収を2500万~3500万円まで高める可能性に言及している。世界規模のAI人材の獲得競争が、日本企業にも同人材の待遇の引き上げを迫っているのだ(参考記事)。

 にもかかわらず、「年収は半分以下、雇用は1年ごとの更新で、しかも5年しかいられない。これでは待遇が低すぎる」というのが、多くの人の反応なのである。

 結論から言えば、これはAI人材に対する世間の誤解だ。AI/IoT評論家であり、ITエンジニアでもあるメディアスケッチ(東京・千代田)代表取締役の伊本貴士氏によれば、AI人材は幅広く、AIのアルゴリズムを開発する人材から、AIを使った製品開発を行う人材、AIを活用した新規ビジネスを構築する人材までいる。ところが、世間では『AIに詳しい=AI人材』となってしまっているのだという。

 誤解を恐れずに言うならば、年収3000万円というのはAIのアルゴリズム自体などを開発する極めて高度な技術を備えた人材だ。一方で、「製品へAIを搭載(実装)できるソフトウエアエンジニアという意味であれば、年収1000万円以上と言いたいところ。ただパナソニックが提示した750万~1250万円も恐らく妥当な範囲だろう」と伊本氏は語る。