全2763文字
PR

 あらゆる情報処理基盤に光技術を取り込み、2030年代の実用化を目指すNTTの「IOWN」構想が具体的に動き出した。ソニーや米インテル(Intel)と共同で設立したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の実現を目指す業界団体「IOWN Global Forum」は2020年4月24日、仕様策定に向けた議論をスタートする。先だって公表した構想書からは、インターネットの標準プロトコルである「TCP/IP」からサーバーのアーキテクチャーまでを刷新していこうという野心的な計画が見えてきた。

 「IOWNで通信業界、コンピューター業界にまたがるインフラの大きなパラダイムシフトを起こす」。IOWN構想を進めるNTTソフトウェアイノベーションセンタ所長の川島正久氏はこう力を込める。

 NTTは19年夏、社長の澤田純氏の肝いりプロジェクトとして、ネットワークから端末まで情報処理に光技術を使うIOWN構想を発表した。エネルギー効率が高く、情報の伝達速度が速い光技術をあらゆる分野に活用することで、現在の電子回路と比べて100分の1の低消費電力を実現することを目指す。サイバー空間に現実空間と同じモデルを作る「デジタルツイン」の実現もIOWN構想の視野に入る。

NTTの「IOWN」構想が具体的に動き出した
NTTの「IOWN」構想が具体的に動き出した
(撮影:日経クロステック)

「TCP/IPを共通レイヤーとした手法は限界」

 IOWN Global Forumが公表した構想書を読み解くと、IOWNは、現在のTCP/IPを中心としたネットワーク基盤から、物理サーバーを基本としたコンピューティング基盤まで刷新しようという壮大な計画であることが見えてくる。

 「TCP/IPを共通レイヤーとしてさまざまなデータをつなぐ現在の方法はビヨンド5G時代には限界を迎える。データセントリックな形に作り替えていく必要がある」。川島所長はこう話す。

IPセントリックからデータセントリックへデータをつなぐ方法を作り替える
[画像のクリックで拡大表示]
IPセントリックからデータセントリックへデータをつなぐ方法を作り替える
(出所:NTT)

 どういうことか。IOWNが商用化を目指すビヨンド5G時代、あらゆるモノにセンサーやカメラが装着され、ネットワークを経由してクラウドでデータ分析。社会課題の解決に役立てる取り組みが進む。映像は現在の30フレーム/秒程度から120フレーム/秒になるなど高フレームレート化が進み、人間の目では判別がつかないような異常もAI(人工知能)が検知できるようになるだろう。

 クラウドで異常を検知した場合、現場へ結果をフィードバックするケースも多い。「その際に今のTCP/IPを使う限り、パケットの往復時間で1秒を下回ることは難しい」(川島所長)。TCP/IPプロトコルは送信が失敗した場合、パケットを再送する。この仕組みがインターネットの信頼性を高めるのに役立っている。その半面、頻繁に再送が発生するため、パケットの遅延がどうしても生じるからだ。

 IOWNでは、TCP/IPに代わる高速通信可能なプロトコルを策定するほか、さまざまなセンサーデータを効率よく高速に交換できる基盤を作る。

 「セッションを張り宛先を指定してやりとりするこれまでの手法ではなく、Pub/Subモデルと呼ばれる手法を応用する。AIのインスタントメッセンジャーのようなデータ交換の仕組みを作る」と川島所長は語る。

 Pub/Subモデルとは、メッセージを受け取りたい相手が、あらかじめ購読したいトピックを設定。トピックが発生した瞬間にメッセージが瞬時に配信されるような仕組みだ。「この仕組みを使ってセンサーデータを瞬時に交換できるハブのような基盤を作る。高速通信可能なプロトコルでつないでもよいし、これまでのTCP/IPでもつなげるようにする」(川島所長)。

サーバーも機能ごとに最適分離

 IOWNが目指すパラダイムシフトは、サーバーのアーキテクチャー刷新も含まれる。「クラウドコンピューティング全盛の今でも、クラウド以前に設計された箱単位のサーバーを増設しながらインフラを作っている。消費電力を抑えるために、ディスアグリゲーテッドコンピューティングに取り組む必要がある」と川島所長は続ける。

サーバーのアーキテクチャーの刷新も狙う
[画像のクリックで拡大表示]
サーバーのアーキテクチャーの刷新も狙う
(出所:NTT)

 「ディスアグリゲーテッドコンピューティング」とは、サーバーを構成するCPUやメモリー、ストレージなどを分離。アプリケーションに応じて動的にリソースを組み合わせて、効率的な利用を実現する手法だ。