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 「元日産」の肩書を持つ2つの電池メーカーが、2020年に勝負を仕掛ける。いずれも、日産自動車が電池戦略を転換したことをきっかけに、“外”に飛び出した企業だ。1社はEV向けではなく定置用電池で攻め、もう1社はEV向けだがセルの形状として世界で主流のタイプを採用する。

 「複数の特許の使用許諾だけでなく、論文では発表していない細かい数値や、製造工程に関わる様々なノウハウまでをひっくるめ、一切合切を提供する。日産の知見を使って、電池を製造できるようになる」。こう語るのは、日産自動車テクノロジービジネス部主任の手賀聡氏である。

 同社は2020年4月16日、リチウムイオン電池の理想形ともいわれる「全樹脂電池」を開発するAPBに、日産が蓄積してきた要素技術をライセンス供与すると発表した。虎の子として守ってきた全樹脂電池のノウハウを、外部に提供することを決めた。

内製から外部調達へ

 この決断の背景にあるのが、日産の電池方針の転換である。

 電池は自社で開発・製造するのではなく、外部から調達する方針に変更する――。日産は、電気自動車(EV)の初代「リーフ」を発売した2010年からリチウムイオン電池の内製にこだわってきた。だが、戦略の転換によって、2020年に量産を始める予定のEV専用の新プラットフォーム(PF)を適用した新型車からは、リチウムイオン電池を外部の電池メーカーから積極的に調達する方針だ(図1)。

図1 日産のEV専用プラットフォーム
図1 日産のEV専用プラットフォーム
2020年に量産を開始するEVから適用する予定。(出所:日産自動車)
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 そもそも、日産が電池の内製を始めたのは「外部から調達できる電池がなかったから」(日産の幹部)。その決断から10年ほどがたった現在、内製の電池よりも低コストの電池を「外部から調達できる環境が整った」(同幹部)という。

 調達先の有力候補は、韓国や中国の電池メーカーだ。日産は既に、中国市場向けのEVで中国・寧徳時代新能源科技(CATL)の電池を採用済み。2020年から量産を始める新PFのEVへの投入に向けて準備を進めてきた。EVが抱えるコストの課題を、電池の外部調達によって解決する日産の今回の決断は合理的といえる。

 一方で、この方針転換を日産で電池開発を担当する技術者の立場から見ると、「優れた技術を開発しても、内製できる可能性がほとんどなくなった」(元日産の電池技術者)となる。このため、内製から外部調達に切り替えたことを機に、「少なくない数の電池技術者が日産を離れた」(同技術者)という。

 その中の1人が、全樹脂電池の量産を目指すAPBを立ち上げた堀江英明氏だ。日産時代の1990年代に全樹脂電池の構想を始め、2018年に日産から飛び出してAPBを設立した。技術者だけでなく、日産の子会社として電池生産を担当してきたオートモーティブエナジーサプライ(AESC)も中国企業の傘下に入った。新天地で新型電池の量産を控える。