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 「我々が提供するリモートの学習環境を、生徒一人ひとりがどのようにハック(改善や創意工夫)できるのか、を問いたい」。フランス発のITエンジニア養成校「42」の東京校「42 Tokyo」を運営する長谷川文二郎ディレクターはこう語る。

 新型コロナウイルスが世界的に流行する中、42 Tokyoは2020年4月、1カ月にわたるオンラインの特別プログラムを生徒に提供した。

感染拡大でキャンパスが相次ぎ閉鎖

 42は世界15カ国にキャンパスを持つ、生徒同士の教え合い(ピアラーニング)を特徴とする無償のITエンジニア養成機関だ。

 42に「教師」はいない。生徒は自らキャンパス内のテキストやインターネット上の教材などで独学し、42のシステムが出題する課題を解く。分からない点は他の生徒に聞く。生徒同士の対面のコミュニケーションを通じて互いに教え合うのが42のやり方であり、42がオフラインにこだわってきた理由である。

 だが現在、新型コロナウイルスの世界的な流行により、ほぼすべてのキャンパスは閉鎖され、生徒の立ち入りができない状況にある。そこで世界の42ネットワークは活動の場をオフラインからオンラインへ移した。まず韓国のキャンパスで2020年2月中旬にオンライン対応の検討を始め、他のキャンパスも追従した。

 これまで42の生徒はキャンパスに通い、所狭しと並んだパソコン端末にログインして受講していた。コロナ禍を機に、42はリモートデスクトップソフト「VNC(Virtual Network Computing)」を経由して、生徒が自宅などから42の端末やサーバーにアクセスできるようにした。

 これにより、生徒は自宅からキャンパス内のGitにソースコードなどの成果物を提出するといった操作ができるようになった。8年間の42の歴史の中でも、課程の完全オンライン化は初めてという。

42 Tokyoは特別プログラムを開始

 2020年4月に開校予定だった42 Tokyoもオンラインに移行した。既に入学試験を通過している生徒を対象に2020年4月6日からオンラインで特別プログラムを始めたのだ。プログラムは(1)基礎的な技術の習得、(2)Webサイトやアプリケーションのプロトタイプの作成、(3)ハッカソン形式のワークショップという3つの段階から成る。

 「最終的にはハッカソンを通じ、学習環境のリモート化で42が失った『対面の教え合い』をどのように補うか考え、プロトタイプし、今後の42に対して提案してもらうことを考えている」(長谷川ディレクター)

 42のピアラーニングを象徴する仕組みとして、生徒同士が課題の提出物であるソースコードなどをレビュー(講評)し合う仕組みがある。生徒が2人1組で隣同士の席に座り、一方が作成したソースコードやアプリケーションなどの提出物を、もう一方が講評し、課題の要求を満たしているかを判定する。

 こうした生徒同士の対面のやり取りを通じ、「互いに分からないことを聞き、教え合う」というエンジニアの基本的なライフスタイルを身につける。これは42で得られる最も重要な「学び」の1つという。

 「レビューの方法は生徒自らが工夫し、高めていくもの。こうした考え方は世界のキャンパスで根付いている」と長谷川ディレクターは語る。4月に始めた42 Tokyoのオンライン特別プログラムは「生徒自身がレビューの方法をハックしていくというコロナ禍以前からの42のコンセプトを、42 Tokyoでも根付かせたい」との狙いで設計したという。