新型コロナウイルスの影響でリモートワークに移行する企業が急増し、2020年はリモートワークで社会人のスタートを切る「リモートネーティブ」な新入社員が誕生した。入社式から新人研修、場合によっては新人歓迎会までをオンラインで済ませ、5月まで新入社員を一度も出社させない企業も少なくない。
入社式では役員が新入社員一同を迎え、合同研修を通して社会人としての基礎を養いつつ同期の仲を深めさせるのが2019年までの「常識」だった。社会に初めて出る新入社員にいきなりリモートワークをさせて大丈夫なのかという声も聞かれる。
迎え入れる側もそれなりに不安要素は多いが、肝心の新入社員はどう受け止めているのだろうか。入社式から新人研修まで全てオンラインで済ませている2社の新入社員に生の意見を聞いた。
「リモートでも自然なコミュニケーションを取れている」
1社目はGMOインターネットグループでホスティング事業などを担うGMOペパボである。GMOインターネットは2020年1月にグループ4000人を対象にリモートワークを始め、他社に先駆けた取り組みとして話題となった。
新入社員研修もフルリモートで実施するといち早く明らかにしていた。GMOペパボの新入社員16人のうち2人がオンライン取材に答えた。
エンジニア職として採用された原慧士さんはオンライン研修で使うツールに入社前から日常的に触れていたという。「学生時代にITエンジニアのアルバイトをしており、チャットやビデオ会議などのコミュニケーションツールは使い慣れていた」(原さん)。新入社員の間では既にチャットツールを業務だけではなく日常のコミュニケーションでも使い、ところどころ笑いを挟んだ自然な会話が生まれているという。
原さんは自宅で集中力を保つための工夫についても話した。「出社する状況になっても適応できるよう、朝早めに起きてラジオ体操をしている。空気中の二酸化炭素濃度が上がると集中力が落ちるため、こまめに部屋の換気もしている」(同)。
いずれの工夫も会社の要請で始めたものではない。入社後1カ月を満たない原さんは働く場所を制限されながらも、早くもパフォーマンス向上のため自主的な取り組みをスタートさせていた。
もう1人の新入社員、管理部門に採用された深沢すずかさんは入社までチャットやビデオ会議などのツールに触れたことはほとんどなかった。だが「最初に説明を受け、すぐに使いこなせるようになった」(深沢さん)。業務時間外に米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(Zoom Video Communications)のビデオ会議サービス「Zoom」を使った「Zoom飲み」に参加することもあるという。
新入社員のつながりづくりにも、リモートネーティブならではの工夫が見える。深沢さんは「新入社員の間でプライベートのTwitterアカウントをフォローし合っている。前日の投稿内容が雑談の話題になることもある」と話す。GMOペパボには個人のTwitterアカウントを公開している社員が多く、深沢さんも「プライベートのアカウントを同期や先輩と教え合うのに抵抗はない」とする。
原さんも深沢さんも研修内容や新入社員同士のコミュニケーションで特段困っていないと口をそろえたが、意外なところに不安を感じていた。「通勤した経験がなく、今後オフィスに出社するようになると、満員電車で疲れた状態で研修や業務に耐えられるか心配だ」(原さん)。深沢さんは学生時代は自動車通学だったため、満員電車に乗った経験自体が少ないという。
リモートネーティブを迎え入れる人事サイドはどう工夫したのか。同社HR統括部HR統括グループ人事企画チームの福場麻美氏は、新入社員とのコミュニケーションで心掛けた点について次のように話す。「新人研修での毎日の朝会は例年30分だが、今年は45分に伸ばして臨んだ。リモート環境ならではの注意点や困り事について共有できるようになったため、結果として正解だった」。ただ飲み会やランチといった交流の場作りについては、「人事としてもう一工夫できたかもしれない」と課題を残したという。