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 新型コロナウイルス対策として、国内の住民に1人10万円を給付する「特別定額給付金」を盛り込んだ補正予算案が2020年4月30日にも可決、成立する見通しだ。ITベンダーや自治体は早期の給付開始へ、連休返上でシステム改修を急ぐ。

 支給を担う市区町村などの地方自治体も5月給付に間に合うよう、補正予算成立に先んじて準備作業に着手した。しかし自治体からの申請書の郵送が6月にずれ込む恐れがある。住民の名前を印字した申請書類の出力や申請者の管理など、多くの自治体で基幹システムと連携する新たな機能追加や改修が必要になるからだ。

 自治体にシステムを納入するITベンダーは、2020年4月29日に始まった大型連休を返上して開発を急ぐ。連休明けの5月7日ごろにも一部機能から順次提供を始める計画だ。ただし導入テストから申請書類の印刷・封入作業までを勘案すると、申請書の発送は早くて5月中旬から下旬になる見通しだ。一部の自治体は「発送が2020年6月になる」とホームページで告知を始めた。支給は6月以降になる可能性もある。

 住民が返送した申請書の確認やデータ入力といった作業も、自治体にとって大きな負担となる。全国の自治体が一斉に動き出すため、データ入力業務を請け負うITベンダーにとってはピーク時の人材確保が課題となる。

一部のベンダーは大型連休中に申請書を印刷・封入

 政府は今回の特別定額給付金に当たって、原則としてマイナンバーカードを使ったオンライン申請と書類の郵送による申請の2つを用意した。このうち自治体で対応に時間を要するのが郵送による申請だ。給付金を受け取る住民は、自治体から発送された申請書に必要事項を記入して送り返す必要がある。

総務省が公表した特別定額給付金の標準的な申請様式。OCR対応も考慮した改訂版である
総務省が公表した特別定額給付金の標準的な申請様式。OCR対応も考慮した改訂版である
出所:総務省
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 郵送方式の場合、自治体は世帯住所や世帯主や同居家族の名前を印字した申請書を送付する。他人によるなりすましの防止やデータ入力作業の負担軽減のためだ。業務の内容は2009年に実施された1人1万2000円の定額給付金に近く、当時のシステムも再利用できるとの期待があった。

 しかし自治体やITベンダーによると当時のシステムはほぼ再利用できず、新規開発が必要だという。システムが保守されてないうえ、自治体システムがパッケージを刷新していたりクラウドに移行していたりして、稼働環境が大きく変わっているケースが多いからだ。

 そこで一部のITベンダーは近年の別の給付金制度の仕組みを流用して開発を急ぐ。2019年10月の消費増税対策として2019年10月~2020年3月に導入されたプレミアム付き商品券や、2014年の消費増税対策で2018年3月まで支給された臨時福祉給付金である。名前入りの申請書はプレミアム付き商品券の機能を、銀行口座や振り込みの管理は臨時福祉給付金の機能をそれぞれ流用できるという。

 約150の市区町村でパッケージの採用実績を持つITベンダーの行政システムは、既存機能を流用して大型連休明けをメドに定額給付金向け機能の提供を始める予定だ。クラウド型で自治体向けシステムを提供するTKCも同様の手法で開発を急ぐ。同社は申請書の印刷や封入も自社グループで請け負い、連休明けにも封書の状態で自治体に納品を始めるという。

 RKKコンピューターサービスは、申請書の印刷機能を先行提供するなど2~3回に分けて機能を開発することで、5月中に給付を始められるようシステム開発を急ぐ。「エンジニアの確保は非常に厳しいが、今回の事業を最優先させた」(同社)。開発のメドはたちつつあるという。