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 「当初は増資するつもりで話を進めたが、新型コロナウイルスの感染が拡大するタイミングでM&A(合併・買収)の議論に切り替えた」。舞台裏を明かすのは、米インテル(Intel)投資部門のインテル・キャピタル(Intel Capital)で社長を務めるウェンデル・ブルックス(Wendell Brooks)氏である。

 インテルは2020年5月4日、交通アプリを手掛けるスタートアップのイスラエル・ムービット(Moovit)を買収したと発表した。買収額は約9億ドル(1ドル=107円換算で約963億円)。インテルは過去にムービットに約7%出資しており、8億4000万ドル(約899億円)を今回支払い買収した。

 ムービットは2012年の創業。電車やバスだけでなく、ライドシェアリングや自転車など様々な移動手段を組み合わせた移動経路を提案する乗り換え案内アプリを開発している(図1)。世界102カ国の3100都市でサービスを展開し、8億人の利用者を抱える。

図1 ムービットの乗り換え案内アプリは世界8億人が利用
図1 ムービットの乗り換え案内アプリは世界8億人が利用
車やバスだけでなく、ライドシェアリングや自転車など様々な移動手段を組み合わせた経路を提案する。(出所:インテル)
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 ムービットは数カ月前から資金調達を模索していた。そんな中で発生した新型コロナ感染症。人々の移動が制限されれば乗り換えアプリの利用が減り、収益が悪化する懸念が高まっていた。直近の運転資金は手元に確保したようだが、新型コロナの影響が長引けば経営がぐらつく可能性は十分にある。

 一方のインテルは、新型コロナをムービット買収の好機と捉えた。経済の落ち込みによって、買収金額を抑えられると判断したようだ。

 買収交渉もコロナ禍ならではの対応だった。ムービットの最高経営責任者(CEO)で共同創設者のニル・エレズ(Nir Erez)氏によると、「増資の検討から買収に至るまで、両社の議論は『Zoom』や『Skype』などのビデオ会議だけで行った」という。

ムービット買収は17兆円市場への布石

 異例の買収劇でムービットを手中に収めたインテル。目的は、2017年に買収したイスラエル・モービルアイ(Mobileye)が開発を進める自動運転タクシーの事業を強化することだ。インテルは自動運転タクシー市場が2030年に1600億ドル(約17兆円)規模になると予測している。

 モービルアイ社長兼CEOのアムノン・シャシュア(Amnon Shashua)氏は今回の買収を、「(移動サービスを提供する)モビリティープロバイダーに転身する上で重要なピースを埋めることができた」と表現する。