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 DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現には、ビジネスの変化に応じて柔軟にシステムを開発・変更できるアジャイル開発が向いていると言われる。開発チームのメンバー同士が緊密なコミュニケーションを取りながら、1週間から数カ月程度に期間を区切って反復開発し、徐々にシステムを完成形に近づけていく。開発途中でシステムに変更が発生しても許容しやすい。

 ただし従来のウオーターフォール開発に慣れた現場でアジャイル開発を始めるにはいくつかのハードルがある。その代表例が契約だ。開発リソースの関係で外部のITベンダーに開発を委託するユーザー企業は多い。ITベンダーと契約を結ぶ際、ウオーターフォール開発で一般的な「一括請負契約」は開発途中の仕様変更を許容するアジャイル開発と相性がよくない。開発当初から仕様が決められているからだ。

 では、アジャイルによるシステム開発を外部に委託する場合はどのような契約を結べばよいのか。この課題を解決するには、情報処理推進機構(IPA)が2020年3月31日に公開した「アジャイル開発版『情報システム・モデル取引・契約書』(本版)」が有用だ。IPAのWebサイトからダウンロードできる。

 このモデル契約書は経済産業省が2018年9月に出した「DXレポート」を受けて作成したものになる。アジャイル開発を外部に委託する際の契約条項などをまとめてあり、「ユーザー企業がITベンダーにアジャイル開発手法を用いたシステム開発を委託する際に活用できる」(IPAの山下博之社会基盤センター産業プラットフォーム部コネクテッドインダストリーズグループリーダー)。

モデル契約書作成のリーダーを務めた情報処理推進機構の山下博之社会基盤センター産業プラットフォーム部コネクテッドインダストリーズグループリーダー
モデル契約書作成のリーダーを務めた情報処理推進機構の山下博之社会基盤センター産業プラットフォーム部コネクテッドインダストリーズグループリーダー
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準委任契約が基本、ユーザー側がプロダクトオーナーを選任

 IPAが公開したモデル契約書はアジャイル開発手法の1つである「スクラム」をベースとしている。アジャイル開発を外部に委託する際の契約書のひな型だけでなく、解説やチェックリストを付けたのが特徴だ。山下グループリーダーは「モデル契約書を作成している中で、契約書だけを提供してもアジャイル開発はうまくいかないという議論があった」と話す。

 アジャイル開発は従来のウオーターフォール開発とは違い、ITベンダーに丸投げしてもうまくいかない。ユーザー企業にはアジャイル開発の最低限の知識が必要であり、ITベンダーとの協力体制も構築しなければならない。このような前提がないとアジャイル開発は難しく、実際に開発を進めても失敗する可能性が高くなる。

 そこでモデル契約書とは別にチェックリストや開発を進める際の指針を用意した。チェックリストは開発前に利用する。プロジェクトの目的やゴールなどが明確になっているかを確かめられるものだ。山下グループリーダーは「ユーザー企業とITベンダーの担当者が初期計画や開発体制が十分であるかをチェックすることが大切」という。