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 トヨタ自動車(以下、トヨタ)グループの高品質の一翼を担ってきたデンソー。その高品質の看板に大きな亀裂が入った。欠陥燃料ポンプを自動車メーカーに供給し、100万台を超える「メガリコール」の原因となってしまったのだ。なぜ欠陥燃料ポンプを造ってしまったのか。その原因を専門家への取材で追究する。後編は欠陥を起こした根本的な原因、すなわち「真因」を明らかにする。

 トヨタグループで必須なはずの品質管理のところで手を抜いた──。専門家への取材を基に欠陥燃料ポンプが生まれた原因を追究していくと、デンソーの開発設計の意外な姿が浮かび上がってくる。

 トヨタ車は高品質で定評がある。そこに大きく貢献してきたのが品質管理手法だ。本来、トヨタグループでは品質管理手法を適切に使わずにものづくりを行うことはあり得ない。開発設計プロセスの中に品質管理手法が織り込まれている上、各品質管理手法を使用した証拠を何らかの形で示さなければ、次のプロセスに進めない仕組みになっているからだ。すなわち、品質管理手法にきちんと基づいてものづくりを行い、品質不具合を未然に防ぐ確率を高めるのが、トヨタグループの製品の品質が総じて高い理由だ。

メガリコールの原因となった欠陥燃料ポンプ
メガリコールの原因となった欠陥燃料ポンプ
上が[1]の欠陥低圧燃料ポンプ、下が[2]欠陥HEV用燃料ポンプ。(出所:国土交通省)
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 だが、この欠陥燃料ポンプ、すなわち[1]欠陥低圧燃料ポンプと[2]欠陥ハイブリッド車(HEV)用燃料ポンプに関して言えば、デンソーは品質管理手法を適切に使用しなかった、もしくは使わなかった可能性が高いと言わざるを得ない。

リコールまで5年超は「異常」

 「処置が遅すぎる。なぜこんなに待ったのか」。デンソー出身の元開発設計者で品質保証に詳しい専門家(以下、品質の専門家)はこういぶかしがる。欠陥燃料ポンプがリコールに該当する部品と判断するまでの時間が長すぎるからだ。

欠陥燃料ポンプのリコールまでの期間
欠陥燃料ポンプのリコールまでの期間
市場投入されてから5年を優に超えている。市場から上がった不具合件数もかなり多い。(出所:日経クロステック)
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 [1]の欠陥低圧燃料ポンプを搭載したクルマが初めて生産されたのは、2013年9月2日だ。トヨタの大型SUV(スポーツ多目的車)「ランドクルーザープラド」や、高級車レクサス「LS600h」「GS450h」「NX200t」などに幅広く搭載されている。一方、[2]の欠陥HEV用燃料ポンプを搭載したクルマが初めて生産されたのは、2013年12月20日だ。ミニバン「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」のHEVに載った。

[1]の欠陥低圧燃料ポンプを搭載したリコール対象車
[1]の欠陥低圧燃料ポンプを搭載したリコール対象車
ランドクルーザープラド(左上)とLS600h(右上)、GS450h(左下)、NX200t(右下)。(出所:トヨタ自動車)
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 これに対し、[1]の欠陥低圧燃料ポンプを搭載したクルマの日本におけるリコール届け出日は2020年3月4日である。米国ではデンソー自身がリコールを届け出たとみられるが、それも同年1月とわずか2カ月前にすぎない。[2]の欠陥HEV用燃料ポンプの日本におけるリコール届け出日は2019年9月19日である。

 つまり、[1]の欠陥低圧燃料ポンプが市場に出てからリコールになるまでに6年半もかかっているのだ。[2]の欠陥HEV用燃料ポンプでも5年10カ月もある。「リコールまでに5年も6年もかかっているのはおかしい。判断が明らかに遅れている。原因と対策を見つけられずに様子見していたのではないか」と品質の専門家は指摘する。

 この専門家が「異常だ」とまで指摘する点がある。市場から上がってきた不具合件数の多さだ。[1]の欠陥低圧燃料ポンプでは555件、[2]の欠陥HEV用燃料ポンプでも125件もあるのだ。実は、リコールは市場からの不具合件数がゼロのうちにメーカー側が発見してリコール処理するのが理想。早めに手を打たなければ、リコール対策費用が膨れ上がるからである。従って、「不具合件数が、多くても1桁台でリコール判断しなければならない」(同専門家)。

[2]の欠陥HEV用燃料ポンプを搭載したリコール対象車
[2]の欠陥HEV用燃料ポンプを搭載したリコール対象車
ノア(左)とヴォクシー(右)。(出所:トヨタ自動車)
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良品回収調査の手抜きの可能性

 デンソーはなぜ、不具合件数がここまで多くなるまで見過ごしたのか。品質の専門家が指摘するのは、「良品回収調査」における手抜きだ。

 良品回収調査は、製品の寿命を設計するための品質管理手法である「信頼性設計と信頼性試験」の中で行う必須の調査である。市場でトラブルを起こした不良品をメーカーが回収して調べるのは当然だ。トヨタグループではさらに、市場において良品のまま使用されている製品を回収し、ワイブル解析とよぶ手法を使って製品の寿命(故障率)を推定する。

 これにより、短期間の使用で将来の寿命を予測できる。例えば、市場でクルマが1万kmしか走行していない時点で、走行距離が10万kmになるときの故障率を推定して、製品の寿命を知ることができるのだ。

 良品回収調査を使うのは、開発設計で想定した期間、顧客が製品を問題なく使い続けられるか否かを検証するためだ。例えば、「走行距離が○○万kmまでメンテナンスフリーにせよ」といったトヨタの要請に、トヨタグループは良品回収調査を利用して応えているのである。

 特に、設計や生産、使用環境(販売する市場など)に変更が加わった場合、良品回収調査を省略することは許されない。良品回収調査を実施していれば、市場投入からもっと早い段階で燃料ポンプの欠陥に気づき、リコール対策費用をかなり小さく抑えられたはずだ。「多くても不具合件数が10件程度出た際にワイブル解析を実施すべきだった。明らかに手遅れだ」(品質の専門家)。

 品質の専門家はこの欠陥燃料ポンプにおいて、デンソーが「良品回収調査を実施していなかったか、もしくは実施したものの調査がずさんで、今回の欠陥の『故障モード(故障の起こり方)』を調査していなかった可能性が高い」と指摘する。例えば、良品回収調査を行って樹脂製インペラの寸法は測定したが、強度(引っ張り強さや曲げ強度など)までは調べなかったといった具合である。