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 米国国家規格協会(American National Standards Institute、ANSI)と米保険業者安全試験所(Underwriters Laboratories、UL)は、完全自動運転に向けた初の安全規格となる「ANSI/UL 4600」を2020年4月1日に発行した(図1)。この日はくしくも日本が自動運転レベル3を解禁した日。自動運転レベル3では日本が先行したが、同レベル4では米国が先行する格好だ(関連記事1234)。

図1 開催されたANSI/UL 4600の規格策定パネルの様子
図1 開催されたANSI/UL 4600の規格策定パネルの様子
(出所:Underwriters Laboratories)
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* 今回のANSI/UL 4600の策定に関わったのは、ULの他に、米運輸省、米ペンシルベニア交通局、米消費者製品安全委員会、米センター・フォー・オート・セーフティー(Center for Auto Safety、自動車産業に焦点を当てる米国の消費者擁護団体)などの政府や自治体、団体。さらに、ドイツ・ミュンヘン再保険の米国法人である米Munich Reinsurance Americaや保険・再保険会社の米アクサ(AXA)の子会社である米アクサXL(AXA XL)などの保険会社に加えて、多くの自動車関連企業が参画している。

 代表的なところでは、米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)の子会社である米ウーバー・アドバンスト・テクノロジーズ・グループ(Uber Advanced Technologies Group、トヨタ自動車やデンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンドも出資)、ドイツ・ダイムラー(Daimler)の子会社である米ダイムラー・トラック・ノース・アメリカ(Daimler Trucks North America)、日産自動車の子会社である米ニッサン・ノース・アメリカ(Nissan North America)、米フォード・モーター(Ford Motor)傘下で自動運転技術の開発を手掛ける米アルゴAI(Argo AI、ドイツVolkswagenも出資)、NIO(中国の電気自動車メーカー)、ドイツ・ボッシュ(Bosch)などである。これらのそうそうたる企業に加えて、米インテル(Intel)やドイツ・インフィニオン・テクノロジーズ(Infineon Technologies)といった世界を代表する半導体メーカーも参加しており、同規格は強い影響力を持つ可能性を秘める。

 UL規格は、ULが策定する製品安全に関する規格。同規格の認証取得は任意だが、米国では州のプロジェクトによってはUL認証を義務付けていたり、規格によっては米国の国家規格の1つであるANSI規格に採用され、ANSI/UL規格となっているものもある。UL 4600はそうしたANSI規格に採用されたUL規格の1つだ。

 今後、ANSI/UL 4600が米国の連邦または州政府の法規制において引用されれば、同規格の認証は強制力を持つものとなる。しかもANSI規格にも採用されたANSI/UL 4600は、将来的には国際標準化機構(ISO)のISO規格に採用される可能性もある。ANSIは、国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)などに米国を代表するメンバーを派遣している機関。ANSIが世界に先行して採用した規格は、ISO規格に採用されることも多い。

 完全自動運転技術のオープンソース型開発コンソーシアム「アポロ計画」を主導する中国・百度(Baidu)も、国際的な規格の認証取得には積極的だ。既に、自動車産業向けの品質マネジメントシステムに関する国際規格「IATF 16949:2016」、自動車向けの国際的な機能安全規格「ISO 26262」、車載ソフトウエア開発向けのプロセスモデル「Automotive SPICE(A-SPICE)」(ISO/IEC 15504を基に策定)などの認証を取得しているとされる。ANSI/UL 4600がISO化すれば、Baiduも認証取得に動く可能性は十分考えられる。完全自動運転車の実用化を掲げる米テスラ(Tesla)も、米国企業として米国の国家規格となったANSI/UL 4600を尊重するものとみられる。

 ただ、仮に米国の連邦または州政府の法規制においてANSI/UL 4600が引用されなかったり、ISO規格に採用されなかったりしたとしても、完全自動運転車の安全規格が世界に先駆けて米国で発行したことの意味は大きい。同規格の発行により、完全自動運転車を開発するメーカーは、安全性の証明を全て独自に行うことなく、同規格に沿う形で証明する道を選択できるからだ。完全自動運転車の実用化では、米国が一歩リードしたと言えそうだ。