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 日立製作所鉄道ビジネスユニット笠戸事業所が組み立て工程の作業者向けに2020年から導入したAR(拡張現実)を使った新しい作業支援・管理システム。この最新版を取材した。このシステムでは作業員がスマートグラスの「Microsoft HoloLens 2」を装着し、デジタルトルクレンチを使って締結作業にあたる。

スマートグラスを装着してボルトを締結する作業者
スマートグラスを装着してボルトを締結する作業者
視界にはスマートグラスには締結すべきボルトの指示や締結方向、トルクなどが表示される(写真:日立製作所)
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 作業者の視野には次に締め付けるべきボルトに重ねて締め付け方向やトルクが表示され、作業を支援する。レンチがリアルタイムで把握した締め付けトルク値を基に、適切なトルクでのボルト締結を管理する。

 ARやVR(仮想現実)といえば、3Dコンピューターグラフィックス(3DCG)の応用で実用可能になった技術だ。笠戸事業所でAR導入前に使っていたタブレットによる作業指示システムでも3D-CADデータから生成した3DCG表示を全面的に利用していた。新しいARシステムというからにはこれまで以上に格好よく3DCGを利用している――と思いたくなるが残念ながらそうではない。むしろ拍子抜けするほど画面は地味だ。

 現在のシステムで作業者が見る画面では3DCGをほとんど使っていない。現場の意見を取り入れて改良するうちに姿を消していった。その代わりに重要な役割を果たすようになったのが、なんと「音」。それも「ピー」や「ブー」といった昭和の家電製品のような警告音だという。最新ARのデジタル支援システムにピー音? どういうことだろうか。

日立笠戸事業所が導入したARシステム
日立笠戸事業所が導入したARシステム
鉄道車両の床下機器取り付け、台車への機器取り付けのボルト締め作業において、トルク管理に使う。トルクレンチに貼ってある赤い模様は、カメラが認識するためのマーカー。(写真:日立製作所、図:日立製作所の資料を基に日経ものづくりが作成)
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ARで「情物一致」をさらに進化

 笠戸事業所は日立の鉄道車両工場の本丸だ。最近ではJR東海のリニア中央新幹線の試作車両の公開の場にも選ばれた。もちろん笠戸事業所がこの試作車両をはじめとする数々の最新鋭車両を手掛けるからだ。

 そんな笠戸事業所にとってボルト締結のトルク管理は、生産管理の基本中の基本。紙図面の時代から最重要課題である。なぜならボルト締結は鉄道車両で多用されており、床下機器や屋根上機器の取り付けや台車の組み立て、空調装置の組み立てとさまざまなところで使われる。万が一のボルトの緩みや締め付け漏れは機器脱落といった重大事故に直結するからだ。