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 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、多くの大学が2020年5月初旬ごろからオンライン授業を本格的に始めた。一方、様々な大学で学内サイトへのアクセスが増大しサーバーにつながりにくくなったり、不正アクセスによって学生の個人情報が流出したりするトラブルが発生した。

 そうした中、東京大学は2020年4月以降の授業をすべてオンラインで実施し、問題なく講義を開けている。全国に先駆けて4月3日からオンライン授業を始められた秘訣はどこにあるのか。

迅速なポータルサイトの作成で学生や教員への情報提供を実現

 「学生向け情報発信の場であるポータルサイトを早期に作成できたのが大きい。ポータルサイトで一括して学内のツールの使い方やオンライン授業の方法を発信したほか、早めに説明会を開くことで、教員や学生に『こうすればオンライン授業ができそうだ』というイメージをもってもらえた」。東京大学での遠隔授業の準備を進めてきた田浦健次朗情報基盤センター長は、オンライン授業を早期に開始できた理由をこう語る。

 オンライン授業に向けた貴重な「先例」になったのが、2020年3月2日~4日に開催された日本データベース学会年次大会だ。米シスコシステムズ(Cisco Systems)のオンライン会議ツール「Webex」上で、全ての会議をリモートで実施した。同学会で会長を務め、オンラインでの大会の実施を提案した東京大学産業技術研究所の喜連川優教授が、東大でのオンライン授業実施に発破をかけた。

 3月9日に田浦センター長をはじめ3人でポータルサイトの作成などオンライン授業にむけた準備を始め、2日後の11日にはサイトを開設した。

情報基盤センターなどが作成したポータルサイト。教員や学生への一括した情報提供の場となっている
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情報基盤センターなどが作成したポータルサイト。教員や学生への一括した情報提供の場となっている

 ポータルサイトはソースコード共有サービス「GitHub」上で作成した。「大学内のWebサイト上で作業するのに手間がかかり、特に情報基盤センターの外部の人と共同での編集作業がやりにくい。GitHubなら部局を超えてオープンに協力できる」(田浦センター長)ためだという。情報基盤センターが中心となってポータルサイトを作成したが、大学総合教育研究センターや教養学部の教員もポータルサイトの構築から協力し、迅速な情報発信の環境整備に貢献した。

 東京大学ではオンライン授業のツールとして米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(Zoom Video Communications)の「Zoom」、米グーグル(Google)の「Google Meet」、そしてWebexの3種類を採用した。以前から大学に導入していたGoogle Meetに加えて3つのツールを活用することに決めたのは、「各部局がすでにオンライン会議ツールの導入検討に着手していたため、そのまま検討を続けられるようにした」(田浦センター長)ためだという。

 ポータルサイトでは教員や学生に向けて各ツールのアカウント取得方法やオンライン授業の始め方、接続方法など基礎的な情報を発信した。さらに、3月末にZoomのセキュリティーの脆弱性が問題になった際、即座に脆弱性の内容を評価し文書で公開するなど対応した。

 ポータルサイトでの情報発信以外に、オンラインで参加する教員向け説明会も実施した。シラバスや履修の登録、成績の管理ができるシステム「UTAS」や、授業の履修者に情報を送信できる学習管理システム「ICT-LMS」などを使ってオンライン授業用のURLを通知する方法を説明したほか、オンライン授業の進め方についても解説した。

「学生全員」が理解できるための情報発信を心掛ける

 こうした準備の中で最も重視したのは、これまで学校に一度も来ていない新入生への対応だった。学内システムの存在も当然知らず、例年通りガイダンスに出席して全てが始まると思っていた学生もいたという。新入生でも理解できるポータルサイトの作成を心掛け、また必要に応じて、パソコンなどを持たない一部の学生に対して教養学部に以前から配備していた共用パソコンを郵送し貸し出した。

 こうした入念な取り組みもあり、現時点で東大のオンライン授業についてシステムやサポートの面で大きなトラブルは生じていないという。

 一方で、オンライン授業の運用を通じて見えてきた課題もある。新入生の少人数ゼミをオンラインで運営したが、対面と比べてなかなか議論が盛り上がらないという。

 入学したばかりの新入生20人を1クラスとして実施する「初年次ゼミ」では、20人をさらにいくつかの小グループに分けてグループディスカッションし、発表してもらう形式を採った。新入生はお互いまだ顔を見たこともないまま、オンラインでいきなりディスカッションすることになる。今までにない特殊な状況で、議論を活発にする雰囲気作りについて教員は苦心しているという。