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 「今回の状況を追い風に世界中の顧客で業務のデジタル化が急速に進んでいる。今まではマニアックなユーザーしか付いてきてくれなかったが、ものすごいスピードだ」――。

 DMG森精機取締役社長の森雅彦氏は、2020年5月に開催したオンライン記者会見でこう話し、同社顧客の製造業各社で業務のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション=DX)が急速に進んでいる状況を説明した(図1)。同社は出荷前製品の顧客立ち会い検査をオンライン会議システムで実施する「デジタル立ち会い」の他、同社工場での5G(第5世代移動通信システム)実証試験、4K画像を使った「デジタルショールーム」の開設など、デジタル技術の活用を加速させている。かねて進めてきた取り組みも多いが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)の流行による外出、長距離移動の自粛や在宅勤務の推奨といった活動制限がそれに拍車をかけている。

図1 DMG森精機取締役社長の森 雅彦氏
図1 DMG森精機取締役社長の森 雅彦氏
2020年5月21日のオンライン記者会見時の様子。(出所:DMG森精機)
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高精細カメラ映像を共有して遠隔立ち会い

 「既に英国やドイツ、日本の顧客を相手に十数件実施した。予想以上にうまくいっている」。森氏は「デジタル立ち会い」の手応えをこう述べ、新型コロナ収束後も積極的に適用範囲を広げる姿勢をみせた。

 デジタル立ち会いは、本来ならDMG森精機の工場で、顧客立ち合いの下に実施する工作機械の出荷前検査を、オンライン会議システムを使って遠隔で実施することを指す。これまでは顧客側の担当者数名が出張などして工場に訪れる慣習だったが、新型コロナの流行で難しくなった。

 オンライン会議システム自体はかねて顧客との打ち合わせなどに使っていた。出荷する工作機械自体に設置したカメラやハンディーカメラなどで撮った高画質の映像をリアルタイムで顧客と共有。顧客が直接DMG森精機の工場に出向かなくても、納入予定の工作機械や周辺の自動化設備について、動作を確認したり、疑問点を聞いたり、技術者に要望を出したりできるようにした。立ち会いの際は顧客の機密情報を扱うため、専用の通信回線を用いる他、DMG森精機の従業員のみで接続、配信するなど、セキュリティー面にも配慮している。

図2 デジタル立ち会いの概要
図2 デジタル立ち会いの概要
(出所:DMG森精機)
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図3 デジタル立ち会いの様子
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図3 デジタル立ち会いの様子
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図3 デジタル立ち会いの様子
機械に取り付けたカメラや手持ちのカメラなどの映像を顧客とリアルタイムに共有して、遠隔で立ち会いを行う。(出所:DMG森精機)

 やってみるとリモートならではのメリットもあった。出張を伴うため従来は顧客企業側から立ち会えるのはせいぜい3、4人だったのに対し、リモートなら現場の技術者から経営者まで十数人の関係者が同時に立ち会える。「みんなが参加でき、導入設備の認識を共有できる。従来よりむしろ良くなったのではないか」と森氏は評価する。顧客の工場に据え付けた後の最終調整は、熟練エンジニアが現地で行う必要があるためリモートとはいかないが、感染拡大が収束して活動制限が解かれた後も、可能な範囲でこの仕組みを活用していく方針だ。

 実は以前、同様の取り組みを顧客の大手メーカーなどに打診したが拒否された経緯があったと森氏は明かす。新型コロナがもたらした行動制限でこうした顧客も考えを改めざるを得なくなった。「これまでのあくまで『現地現物』が優先という考えが、社会の雰囲気と会社のルールの変化により『できるところはリモートでやろう』というように変わりつつある」(森氏)