大分空港(大分県国東市)から、ロケットを抱えたジャンボジェットが飛び立ち、宇宙に向けて人工衛星を空中発射する――。こんな夢のような事業が早ければ2年後の2022年にも始まる(図1)。
計画するのは英ヴァージン・グループ(Virgin Group)傘下の米ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)。航空機からの人工衛星打ち上げ事業を2020年中にも開始すべく、システムの開発を進めている。2020年5月25日(米国時間)には米カリフォルニア州沖の海域で打ち上げ実験を実施。打ち上げ用ロケット「LauncherOne」の空中でのエンジン点火に初めて成功した*1。
新型コロナウイルス感染症流行の影響が気になるが、同社のシニアディレクター(Senior Director)で、日本からの打ち上げを担当するモニカ・ジャン(Monica Jan)氏は、「開発スケジュールへの(新型コロナの)影響を抑えるために全力を尽くしている。2022年に大分空港から打ち上げを始める予定に変更はない」と断言する。
同社はこれまでに米カリフォルニア州のモハーヴェ空港(Mojave Air and Space Port)や英ニューキー・コーンウォール空港(Cornwall Airport Newquay)など、米国や欧州の4つの空港をロケットの打ち上げ拠点となる宇宙港として選定、公表してきた。今回の計画を受けて、大分空港はアジアで初めての「宇宙港」となる見込みだ。実現すれば、種子島宇宙センター(鹿児島県)や北海道の大樹町などに続き、国内で5番めのロケット打ち上げ拠点となる*2。
「3000m級の滑走路」は必須、だがそれだけではない
しかしなぜ大分なのか。取材を基に読み解いてみよう。
まず必須だったのが3000m級の滑走路だ。打ち上げ用のジャンボジェット、ボーイング747-400型機を改造した「コズミックガール(Cosmic Girl、宇宙の少女)」が発着するのに必要な長さである。国内には97の空港があるが、3000m級の滑走路を持つ空港は限られ、全部で18空港しかない(図2)。
航空機の発着回数自体がそれほど多くなくて離着陸の自由度が高いこと、周囲に人口密集地が少ないことも条件となる。成田国際空港や東京国際空港、関西国際空港といった都市部の空港は、選択肢になりにくい。発着が少ない地方空港でも内陸に位置していれば人家の上を飛ぶ可能性がある。万が一の事故を考えると選択肢から外れる。
大分空港はこれら条件を満たす数少ない空港だ。国東半島の沿岸を埋め立てて建設され、ほぼ南北に延びる滑走路のうち、西側を除く全ての面が、瀬戸内海西部の伊予灘に接している。これなら打ち上げ用のジャンボジェットは常に洋上を飛ぶ。万が一の事故でも二次災害が起こりにくい(図3)。