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 1基の人工衛星で日本列島全域をIoT(Internet of Things)通信のエリアにして、しかもSigfoxやLoRaなど920MHz帯を利用するあらゆる方式に対応する――。

 常識を覆す新たな技術の確立にNTTとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が取り組んでいる。JAXAが2022年度に打ち上げる高度500kmの低軌道衛星を使って両者は実証実験を進め、事業化を検討する考えだ。地上通信網が整備されていない海洋や山間部などを通信エリアにできる可能性がある。「超カバレッジ」をテーマの1つとする次世代通信方式「6G」の要素技術としても期待が高まる。

安価な920MHz帯IoT端末のデータを衛星で収集

 人工衛星を使った通信サービスは1960年代から実用化されている。地上の通信網が整備されていない地域で通信できる一方、高価な衛星専用無線機が必要で、災害時など利用場面が限定されているのが現状だ。

 「SigfoxやLoRaに使われる安価なIoT端末からのセンサーデータを衛星経由で集められるようにして現状を打破したい」。今回の取り組みを進めるNTT未来ねっと研究所主任研究員の藤野洋輔氏は語る。低軌道衛星がカバーする半径500kmという広範なエリアを、920MHz帯のIoT端末で通信可能にするという壮大な計画だ。

NTTとJAXAが低軌道衛星を使って取り組む実証実験のイメージ
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NTTとJAXAが低軌道衛星を使って取り組む実証実験のイメージ
(出所:NTT)

 LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれるSigfoxやLoRaでも、地上では数十km程度の長距離伝送がせいぜいだ。さらに920MHz帯を使ったIoT端末は、現在スマートメーター用などを含めて国内で少なくとも数百万台規模が動作している。膨大な数のIoT端末からの電波干渉をどうやって回避するのかも課題だ。

 藤野氏は「ブラインドビーム制御を活用する」と課題解決の構想を語る。同制御は、データを受信する衛星側に多数の受信アンテナを用意。特定のIoT端末の電波を増幅するために、各アンテナで受信した波形データの位相振幅を制御するような技術だ。電波が干渉していても特定のIoT端末の電波を抽出できるという。「複数の人が話す環境下で特定の人の声を抽出する話者分離用途に使われる技術。これを衛星通信に応用する」と藤野氏は説明する。

 今回の実験は920MHz帯を使ったIoT無線方式への対応を目指している点も特徴だ。920MHz帯には、SigfoxやLoRa以外に続々と新しい方式が登場している。NTTは衛星を中継器として活用し、地上側で信号処理する仕組みによって続々増える新通信に対応しやすくする。

 「衛星は1度打ち上げたら通信方式を追加しにくい。衛星上で受信した波形を復調せず、波形データをデジタルサンプリングする。そのデータを衛星・地上間の通信を使って地上に戻し、地上側で復調する。衛星上の信号処理は、利用可能な電力が限られるため高い演算能力を与えにくい。地上で信号処理すれば、高い演算能力を安価に確保できる。さらに新しい通信方式にも対応しやすい」(藤野氏)。