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 2019年度の最新自動ブレーキ試験の結果が公表された。トヨタ自動車と日産自動車、ドイツ・ダイムラー(Daimler)が首位になり、同フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)が上位に食い込んだ。引き離されたSUBARU(スバル)とホンダは、センサーの改良で捲土(けんど)重来を期す。この試験結果はユーザーによる新車購入の動機付けにもなることから、各社の販売台数への影響は大きい。日本の自動車アセスメント(JNCAP)による最新の試験結果を基に、自動ブレーキの夜間性能で競う各社の取り組みを追う。

 国⼟交通省と⾃動⾞事故対策機構(NASVA)が2020年5月、JNCAPの予防安全性能試験の最新結果を公表した。新たに、「街灯がない」環境下における夜間歩行者を対象にした自動ブレーキ試験を導入した。国内外の13車種を対象にした結果を見ると、各車の自動ブレーキの夜間性能で明暗が分かれた。

 トヨタ自動車の5車種は、最高点(満点)を獲得して首位となった。上級ミニバン「アルファード」と中型SUV(多目的スポーツ車)「RAV4」、レクサスブランドの小型SUV「UX」、中型SUV「NX」、中型セダン「ES」である。

 トヨタ以外の車両では、日産自動車の中型ミニバン「セレナ」とドイツ・ダイムラー(Daimler)の中型車「メルセデス・ベンツCクラス」も満点を獲得し、首位に並んだ。これらの車両には及ばなかったが、日産の軽自動車「デイズ」とドイツ・フォルクスワーゲン(VW)の小型車「ポロ」も、満点に近い得点を獲得した()。

最新の夜間試験の結果(19年度)
表 最新の夜間試験の結果(2019年度)
トヨタの5車種と日産のセレナ、ダイムラーのメルセデス・ベンツCクラスの7車種が1位で並んだ。(NASVAの発表資料を基に日経Automotiveが作成)
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見えてきた4つのポイント

 今回の試験結果から、夜間歩行者対応の自動ブレーキに関する4つのポイントが見えてきた。第1のポイントは、レクサス車やメルセデス・ベンツCクラスなどの高級車が強さを見せたことである。高級車は価格が高いため、量産車には負けられない。今回は逃げ切ることができた。

 第2のポイントは、価格が比較的安い量産車の一部が、高級車と同じ満点を取ったことだ。量産車は、高級車のようにコストをかけられない。それにもかかわらず、日産のセレナとトヨタのRAV4が健闘した。

 第3のポイントは、自動ブレーキ用センサーの流れに逆らう動きがあった点だ。首位の7車種はいずれも、夜間歩行者の検知にカメラとミリ波レーダーの2種類のセンサーを搭載する。これに対して、VWのポロはミリ波レーダーだけを搭載し、首位に迫る高得点を獲得した。カメラを使わなくても夜間歩行者に対応できることを証明した。

 第4のポイントは、厳しくなる試験条件に追い付けない車種があったことである。ホンダの3車種(中型セダン「アコード」、軽自動車「N-BOX」、同「N-WGN」)と、SUBARU(スバル)の中型SUV「フォレスター」は高得点が期待されたが、思ったほど得点を伸ばせなかった。

 JNCAPの最新試験(街灯なしの夜間)では、街灯がない直線道路を試験車両が走行し、歩行者に見立てたダミー人形が道路を横切る。対向車が「ない場合」と「ある場合」の2つのシナリオがある。対向車がない場合は比較的遠方の歩行者を検知できるが、対向車ありの場合は対向車の陰から突然歩行者が飛び出してくるため、自動ブレーキによる衝突回避はより難しくなる(文末の囲み記事参照)。

 最新の試験では、ある程度の明るさが確保されている街灯ありの環境下に比べて、センサーにより高い夜間性能が求められる。こうした2つのシナリオで実施した試験において、トヨタの5車種とセレナ、Cクラスは、どのようにして街灯のない環境下で夜間歩行者に対応させたのか。以下、代表的な車種を取り上げ、その具体的な取り組みを見ていく。