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 長い歴史を持ち“枯れた”技術ともいわれる鉛蓄電池に進化の余地が残っていた。古河電気工業と古河電池が共同開発したと発表した「バイポーラ(双極性)型」の鉛蓄電池だ(図1)。再生可能エネルギーで発電した電力を蓄える定置用蓄電池の用途で、リチウムイオン電池をしのぐ性能を実現する可能性を秘める。

図1 古河電工と古河電池が開発したバイポーラ型鉛蓄電池
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図1 古河電工と古河電池が開発したバイポーラ型鉛蓄電池
外形寸法は300×300×250mm(予定)で、寿命は15年。従来の鉛蓄電池の約1.5倍の体積エネルギー密度と、約2倍の質量エネルギー密度を実現した。(出所:古河電気工業、古河電池)

 「バイポーラ型の鉛蓄電池は夢の電池だ。2018年にリチウムイオン電池には冷却に大量の電気を使うという課題があることが分かり開発に着手した。両社が徹底的に対話を続けた末の結晶だ」――。古河電工社長の小林敬一氏は20年6月11日に開いた中期経営説明会で胸を張った。

 小林氏が「夢の電池」と表現した理由は、「電力貯蔵用の蓄電池として、設置面積あたりのエネルギー量でリチウムイオン電池を上回る」(古河電工執行役員研究開発本部次世代インフラ創生センター長の島田道宏氏)からだ。従来の鉛蓄電池に比べてエネルギー密度を最大2倍にできたことで、リチウムイオン電池超えが見えてきた。

 技術開発を主導してきた古河電池シニア・フェローの古川淳氏によると、バイポーラ型の鉛蓄電池の量産は「今回が世界初」という。21年にサンプル出荷を始め、22年に製品出荷を開始する計画である。

3つの技術的課題を解決した「夢の電池」

 バイポーラ型の鉛蓄電池は、1枚の電極基板の表と裏にそれぞれ正極と負極を備えるセルを積層する構造である。従来の鉛蓄電池で電極に採用していた鉛板を、薄い鉛箔に置き換えたことで材料の使用量を減らせた。

 これにより、質量エネルギー密度は従来の鉛蓄電池の約2倍、体積エネルギー密度は同約1.5倍を実現した。質量や体積だけでなく、コスト面でも大幅に削減できたという。

 鉛蓄電池をバイポーラ型にする発想は昔からあり、多くの企業が開発を進めてきた。だが、「3つの技術課題を解決できずに実用化に至っていなかった」(古河電工次世代インフラ創生センター第1部長の越浩之氏)。

 具体的には、(1)集電体である鉛箔を薄いままに保ちつつ、長寿命化を実現すること、(2)セル同士の仕切り板の役割を果たす樹脂プレートの成形、(3)鉛箔と樹脂プレートの異種材料接合――である(図2)。古河電工と古河電池は詳細を明かさないが、共同開発によって3つの課題を解決し、量産にこぎつけた。

図2 バイポーラ型鉛蓄電池「3つの課題」
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図2 バイポーラ型鉛蓄電池「3つの課題」
量産に向けて3つの技術解決する必要があった。(出所:古河電気工業、古河電池)