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 数々の経営危機を乗り越え、2020年に創業から100年を迎えたマツダ。同社は今、自動車のエンジン技術で世界トップを疾走している。人も資金も少なくても勝てるマツダ流の戦い方、「弱者の兵法」が功を奏したからだ。同社はエンジン開発にこの方法を活用し、理想的なエンジンに向かう開発のロードマップを描いた(前編はこちら)。後編では、この開発方法の具体例と現場の技術者の声を取り上げ、トヨタと比較したマツダのエンジン開発の特徴をみていく。

 多くの課題の中から1つの「共通課題」、ボーリングでいうところの「1番ピン」を見つけだし、それに絞って解決する。これにより、他の多くの課題も連鎖的に解決させてしまう──。マツダが誇るエンジン技術者の人見光夫氏(マツダシニアイノベーションフェロー)が編み出したこの効率的な技術開発の方法は、同社のエンジン開発の現場に根付いている。

 例えば、小型オープンスポーツカー「ロードスターRF」に搭載した「SKYACTIV-G(スカイアクティブ ジー)2.0」の開発だ。排気量2L(リッター)の直列4気筒直噴ガソリンエンジンで、高回転でありながら高出力と高トルクを実現した。最高回転数を従来の6800rpmから7500rpmに引き上げつつ、最高出力を従来の116kWから135kWに、そして最大トルクを従来の200N・mから205N・mに高めている。

ロードスターRFの外観
ロードスターRFの外観
中速域の高い加速感が高速域まで続く「伸び感」を実現した。(出所:日経クロステック)
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燃焼の改善を1番ピンに

 通常は、高回転で出力を高めようとすると、吸排気バルブ(以下、バルブ)のタイミングを高速化し、バルブスプリング(ばね)を強くして動きを抑え、燃料を増やす必要がある。だが、バルブを高速化すると低速トルクが小さくなる。バルブスプリングを強くすると機械抵抗が大きくなり、燃費が悪くなる。燃料を増やすと大容量の燃料噴射装置が必要となる上に、排出ガス規制を満たすための開発時間が非常に長くなる。

ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」の外観
ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」の外観
高回転でありながら高出力と高トルクを実現した。(出所:日経クロステック)
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 これらの課題を全て解決するために、マツダが1番ピンに選んだのは「燃焼改善」だった。同社は1番ピンを「ブレークスルーを実現する要となる技術」とも表現する(詳細は下の囲み記事に記載)。

燃焼改善に2つの改良

 燃焼の改善に的を絞り、同社は2つの改良に着手した。[1]混合気の改良と[2]筒内流動の改良である。

 [1]の混合気の改良では、燃料噴射を変えて良い混合気を作った。具体的には、燃料噴射の圧力を従来の20MPaから30MPaと1.5倍に高め、噴射燃料を微粒化している。加えて、燃料噴射の回数を従来の2回から3回に増やし(多段化し)、1回当たりの噴射燃料を減らした。これにより、気筒壁面に付着する燃料の量を削減し、空気とよく混ざるように変えた。こうして燃焼速度を高め、高出力化を実現している。

マツダが1番ピンに選んだ「燃焼改善」
マツダが1番ピンに選んだ「燃焼改善」
高回転と高出力を両立させるために生じた多くの課題の中から、共通課題として選択した。(出所:日経クロステック)
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 [2]の筒内流動の改良では、気筒内の渦を強くした。そのために吸気ポートの形を最適化し、ピストンのヘッド形状を変えて高さを下げ、縦渦(タンブル)を長く維持できるようにした。加えて、ピストンの圧縮により、点火前の渦の流れのエネルギーを従来の2倍に引き上げている。これらにより、燃焼速度を高めて高出力化を達成した。

 さらに、高回転時のトルクを出すために、吸気ポートの形状を工夫した「コモンポート」を採用した。従来は2つに分かれていた入り口(インテークマニホールド側)を1つにして抵抗を減らしたものだ。これにより、筒内に取り込む空気量を増やしている。

ピストンの造り込みが1番ピン

 SKYACTIV-G 2.0では、ロングストロークで高トルクを維持しながら、高回転化する技術にも挑戦した。排気量2Lのエンジンはストロークが長い。この長いストークで回転数を7500rpmまで高めると、当然ピストン速度が上がる。すると、摩擦力や摩耗、オイル消費が増加する。加えて、高回転化するとエンジンの振動が大きくなる。この振動を抑えるために部品の強度を高めると重くなり、さらに振動が増大してしまう。

 これらの課題を効率的に解決するために、マツダが選んだ1番ピンは「ピストンの造り込み」だった(詳細は下の囲み記事に記載)。

マツダが1番ピンに選んだ「ピストンの造り込み」
マツダが1番ピンに選んだ「ピストンの造り込み」
高トルクを維持しながら高回転化する際に生じた多くの課題の中から、共通課題として選択した。(出所:日経クロステック)
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摩擦を徹底的に減らして軽量化

 ピストンの造り込みでは、具体的には徹底的に摩擦を減らし、軽量化することにこだわって設計した。そのために、シミュレーション(CAE)を活用して1万個以上のピストン形状案を解析し、シリンダーと接するピストンのスカート部を極小化。質量もピストン1個当たり27g削減し、10%以上軽量化した。

 こうしてピストンを軽くできたため、コネクティングロッド(コンロッド)とクランクシャフトも軽い部品で設計できるようになった。結果、エンジン全体の質量を維持したまま高回転に対応できた。振動の低減も実現している。

ピストンの外観
ピストンの外観
CAEを駆使してスカート部(黒色の四角い部分)の極小化し、併せて軽量化を図った。(出所:日経クロステック)
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