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 自然エネルギーを活用して生成した水素(H2)を基本的な燃料や化学材料として利用する「水素社会」を目指す動きや技術の研究開発が急速に加速してきた。正確にいえば、数年前から水面下で進められてきたさまざまな取り組みが表舞台に上り始めた。

ベンチャーが突然Ford超え

 その1つが、燃料電池(FC)駆動のトラック(FCトラック)などを開発するベンチャーの米Nikola(ニコラ、旧NikolaMotor。2014年創業)の動きだ。同社は2020年6月4日に株式市場の米NASDAQに上場した注1)、注2)。すると株価が短期間に30米ドル台から一時95米ドルにまで約3倍に上昇(図1)。企業価値は上場前の数億米ドル(数百億円)から、一気に100倍近い約3.7兆円に拡大した。これは米Ford Motor(フォード・モーター)の企業価値(時価総額)約2.7兆円を大きく超える水準である。Nikolaの時価総額はその後2.5兆円前後にまで下がったが再び株価上昇の兆しが出ている。

図1 「水素関連株」に世界の投資家が熱い視線
図1 「水素関連株」に世界の投資家が熱い視線
2020年6月4日に上場したNikolaの株価(終値)の推移と、同社がANHEUSER-BUSCHに納入するFCトラックのイメージ。株価は翌週明けの6月8日に急騰。一時は95米ドル台を示した。企業価値は数百億円からいきなり兆円単位になった。(図と写真:Nikola、一部日経エレクトロニクスが加筆)
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注1)この上場は一般的な株式公開(IPO)の手続きを踏まず、既に上場していた米VectoIQ Acquisition(ベクトIQ・アクイジション)をNikolaが逆さ合併することで実現した。存続会社はNikolaである。
注2)NikolaのFCトラックは実際には、燃料電池と蓄電池を併用する「hydrogen-electric hybrid truck」(Nikola)である。同社CEOであるTrevor Milton氏は米メディアの公開インタビューで「2種類を組み合わせた方が、効率良く電源を制御できる」とその理由を説明している。

 Nikolaはビール大手のベルギーANHEUSER-BUSCH(アンハイザー・ブッシュ)からFCトラック800台のリース利用について受注済みで、受注額は100億米ドル(1兆円超)になる。ただし、車両の量産に至ってさえいないNikolaがこれだけ支持されたのは、世界的に水素への期待が高まっているからだといえる。