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 「現実社会では最低限度の生活を保障する生活保護のような仕組みがある。同じようにインターネットの最低保障(セーフティーネット)になるような仕組みにしていきたい」――。こう意気込むのは在宅勤務に利用できる「シン・テレワークシステム」開発者の1人、登大遊氏だ。NTT東日本とIPA(情報処理推進機構)は2020年4月下旬、シン・テレワークシステムの無償提供を始めた(図1)。約100台の「Raspberry Pi」(小型PCボード)と1台のロードバランサーで運用する同システムの開発コストは、わずか「65万円」(登氏)。提供から2カ月で利用者は約4万人(20年6月22日時点)に広がり、これまでテレワーク未体験の企業や自治体に裾野を広げる役割を果たしている。

図1 シン・テレワークシステムの仕組み
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図1 シン・テレワークシステムの仕組み
自宅パソコンと会社パソコンにそれぞれインストールした専用ソフトが、インターネット上の「大規模分散中継システム」を経由してSSL-VPNでやりとりする(作成:日経NETWORK)

 信じられないほど、動作が軽い――。記者が実際にシン・テレワークシステムを使ってみた感想だ。自宅と会社にある2台のPCに専用ソフトをインストールし、自宅PCからログインするだけで準備が完了する。そのまま画面上に瞬時に会社PCのデスクトップが現れ、カーソルを動かすとほとんどタイムラグなしで同期した。いわゆるVDI(仮想デスクトップ基盤)方式で、自宅PCからはマウスやキーボードの動作、会社のPCからはデスクトップの画像データのみを相互に伝送している。

 記者は現在テレワークを基本としているため、社内システムにアクセスするためにVPN(仮想私設網)を使う機会は多い。会社で使うVPNは、簡単なWebサイトの読み込みにもかなりの時間がかかる。「必要だが、あまり使いたくはない」というのが正直な気持ちだ。会社のVPNとは方式が異なるものの、同システムではそういった手間を一切感じることがなかった。動画の再生さえも、スムーズだ。通常、会社にVPN環境を導入する場合、ネットワークの設定変更や専用装置の設置などに数週間かかるケースが多い。シン・テレワークシステムは、思いたったその日からタダで利用できる点もメリットと感じた。

 シン・テレワークシステム開発の中心となったのは、NTT東のコロナ対策プロジェクト特殊局員である登大遊氏と山口肇征氏の2人だ。登氏はソフトイーサ(茨城県つくば市)代表取締役であり、大学在学中にVPNシステム「SoftEther」を開発した天才プログラマーとして、業界では有名だ(図2)。そんな登氏は20年4月、NGN(次世代ネットワーク)の新たな取り組みを進める目的でNTT東に非常勤として入社した。ただ入社とほぼ同時期に日本国内でも新型コロナウイルス感染が広がり、「打ち合わせがなくなり、いきなり暇になってしまった」(登氏)。時間を持て余す中、テレワーク需要が高まっているのを受けて、わずか2〜3週間で開発したのが今回のシン・テレワークシステムだ。

図2 開発者の1人である登大遊氏
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図2 開発者の1人である登大遊氏
(出所:NTT東日本)

 「大企業は既にテレワークシステムを導入しているケースが多い。これまでシステムを導入していない中小企業向けに開発した。意外にも自治体や省庁のような『お堅いところ』からの問い合わせも多い」とNTT東の山口氏は明かす。テレワーク導入をためらっていた企業や団体は、コスト面だけでなく設定の難しさを壁に感じているケースが多い。同システムはその両方を解決している。