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 「Apple Siliconが最高の技術と性能をもたらす」――。2020年6月22日(現地時間)に開幕した米Apple(アップル)の開発者向けイベント「WWDC20」の基調講演において、同社CEO(最高経営責任者)のティム・クック氏はパソコン「Mac」シリーズに自社製プロセッサー(SoC)「Apple Silicon」を搭載する意義をこう強調した。2006年からMac向けに米Intel(インテル)プロセッサーを搭載してきた同社にとって、大きな賭けとなる今回の戦略転換。55兆円を超えるアップルの「アプリ経済圏」に地殻変動をもたらしそうだ。

Mac向け自社製プロセッサーを発表するアップル CEO(最高経営責任者)のティム・クック氏
Mac向け自社製プロセッサーを発表するアップル CEO(最高経営責任者)のティム・クック氏
(画像:WWDC20での基調講演をキャプチャーしたもの)
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駆動時間延長や薄型化に道

 アップルがパソコン向け自社プロセッサー開発に取り組んでいることは、数年前から業界でうわさされてきた。アップルはハードウエアとソフトウエアの両方を手掛けることで、iPhoneを始めとした自社製品を他社製品と差異化してきた。ハードの中核となる半導体の内製化は、アップルにとって避けて通れない道だった。自社製プロセッサーに移行することで、ノートパソコンの駆動時間の延長や薄型化、Macで利用可能なアプリの種類の増加が見込めるからだ。

 実際アップルはこれまでも、iPhoneの主要な半導体部品の内製化に注力してきた。例えば2008年に、CPU設計を手掛ける半導体メーカー米P.A. Semiを買収し、アプリケーションプロセッサーの内製を始めた。2017年にはiPhoneやiPadなどで長年利用してきた英Imagination Technologies GroupのGPUコアの調達をやめることを通達。その後、自社開発のGPUコアに切り替えた。機器を電源管理するICであるパワーマネジメントIC(PMIC)も、PMICメーカーである英Dialog Semiconductor(ダイアログ)に総額6億米ドルほどを投じて、Dialogの資産と従業員の一部をアップルに移管した。2019年7月には、インテルからスマートフォン向けモデム事業の過半を買収することで同意している。

 Mac向けの自社製プロセッサーは、iPhoneやiPadと同じArmコアを採用しているようだ。モバイル向けの同社アプリケーションプロセッサー「Aシリーズ」を基にしているため電力効率が高く、ノートパソコンの駆動時間の延長につながりそうだ。発熱が減るためファンレス化なども簡単になる。さらにはこれまで別部品だった半導体をApple Siliconに統合しているため、ノートパソコンの薄型化にもつながりそうだ。薄型・小型化で生じたスペースだけ、バッテリー容量を増やせば、駆動時間のさらなる延長も可能だろう。

 Apple Siliconには、CPUコアのほかに、GPUコアや深層学習の推論処理を担うとみられる「Neural Engine」、CPUやGPUなどと共有するとみられる「Unified Memory」、そしてセキュリティー用の「Secure Enclave」などが搭載されている。Secure Enclaveは、セキュリティーサブシステム用のプロセッサーで、iPhoneやiPadのAシリーズに搭載済みだ。これまでMacでは、プロセッサーとは別にセキュリティー用の半導体部品「T2 Security」を搭載していた。

Apple Siliconの位置付け。高い演算処理性能と低い消費電力を両立させる
Apple Siliconの位置付け。高い演算処理性能と低い消費電力を両立させる
(画像:WWDC20での基調講演をキャプチャーしたもの)
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