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 「音に包まれる体験が可能になる」――。2020年6月22日に始まった米Apple(アップル)の開発者向けイベント「WWDC20」で同社は、完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」向けの立体音響技術を発表した。立体音響技術は、アップルがここ数年で注力しているARに欠かせない要素だ。新しいAR機能も多く追加され、開発中とうわさされるARグラス「Apple Glass」へ向けた基盤固めが着々と進みつつある。

「AirPodsをさらに進化させる」というコメントとともに、Spatial Audioへの対応が発表された
「AirPodsをさらに進化させる」というコメントとともに、Spatial Audioへの対応が発表された
(出所:WWDC20の基調講演をキャプチャー)
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 新たに追加した立体音響技術「Spatial Audio(空間オーディオ)」を使うことで、左右のイヤホンの2つのスピーカーだけから音を聞くにもかかわらず、周囲のあらゆる方向から音が聞こえるようになる。仕組みは、まず仮想的なスピーカー(音場)を周囲に配置した状態を作り、そこから耳元までの伝達関数をシミュレーションする。その伝達関数をあらかじめ掛け合わせた音を再生することで、あたかもその音場から音が聞こえてくるように感じさせられる。

 Spatial Audioでは、AirPods Proに搭載した加速度センサーやジャイロセンサーを使って頭の動きを検出し、頭の向きに合わせて音が聞こえる方向を調整する。つまり、後ろから声が聞こえるときに振り向けば、ちゃんと正面から聞こえるようになる。

 この他、車などでの移動中に、身体全体の向きが変わったことでセンサーが頭の向きを誤検出して音の方向が変わらないよう、画面と頭の相対関係を把握する機能も搭載するという。

頭の向きが左にずれたとしても、音が聞こえてくる音場の位置は変わらない
頭の向きが左にずれたとしても、音が聞こえてくる音場の位置は変わらない
(出所:WWDC20の基調講演をキャプチャー)
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音の方向と臨場感を付加

 Spatial Audioなどの立体音響技術がARに欠かせないのは、AR空間で音の方向が分かるようになるからだ。例えば現実空間では、後ろから車が近付いて来るのを音で気付くように、音の方向は情報として重要な役割を持つ。

 AR空間で音を使う場合はその方向が重要な付加情報になる。例えば、画面に案内を表示するナビゲーション用途の場合、画面にいちいち映像をAR表示させなくても、音だけで方向と指示を案内できるようになり、画面を注視しなくて済む。ARゲームであれば、アイテムなどを探す際に端末をぐるぐる回す必要が無くなり、音を頼りに探すというゲーム性が生まれる。

 アップルがSpatial Audioに対応した理由は、AR以外にもう1つ考えられる。それは、映像配信サービスの視聴体験向上だ。

 立体音響技術の主な役目は、以前から没入感や臨場感などを高めることにあった。立体音響技術を使えば、もし自宅で映画を見ていたとしても、まるで映画館にいるかのような臨場感を味わえるようになる。

 Spatial Audioは、5.1chや7.1chサラウンド、米Dolby Laboratories(ドルビーラボラトリーズ)の「Dolby Atmos」といった立体音響形式に対応する。アップルが提供する映像配信サービス「Apple TV+」と連携し、これらの形式に対応したコンテンツを配信すれば、競合サービスに無い強みを手に入れられる。