全2058文字
PR

 新型コロナウイルスの「職場内クラスター(感染者集団)」の発生を危惧する声が高まっている。報道によると2020年6月24日には職場内クラスターの発生が疑われる感染が東京都内の人材派遣会社で発生した。同社では前日までに7人が感染し、新たに9人の感染が判明したという。

 東京都の小池百合子知事は同日の記者会見で「職場内クラスターがこのところ大変問題になっている」と指摘。「普通の会社で(新型コロナ対策を)どこまでしているかはなかなかつかめない」と、職場内クラスターの発生に危機感を示した。

 職場における感染拡大を防ぐヒントとなるのが、スーパーコンピューター「富岳(ふがく)」を使って進む新型コロナ対策の研究だ。

 理化学研究所チームリーダーの坪倉誠神戸大学教授は2020年4月末から「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」の研究を始め、6月17日に新たな研究成果を公開した。富岳を使った結果、従来の飛沫シミュレーションと比較して数百~1000倍の計算資源を確保でき、短期間で成果を出せたのは「まさに富岳の威力」(坪倉教授)という。

「大きい飛沫」と「小さい飛沫」

 同研究ではくしゃみやせき、会話などで生じる飛沫がオフィス内でどう漂うのか、飛散シミュレーションを実施した。坪倉教授はオフィスの新型コロナ対策について、「大きい飛沫」と「小さい飛沫」の違いを理解したうえで、それぞれ適切な対策をとる必要があると提言する。

 大きい飛沫は5マイクロメートル以上、小さい飛沫は5マイクロメートル未満の大きさを指す。会話やせき、くしゃみをすると両方が口から飛び出し、大きい飛沫は机や地面に落ちやすく、小さい飛沫は空気中を長時間漂いやすい特徴がある。検証では不織布マスクを着用していれば大きい飛沫は9割以上拡散を防げるが、小さい飛沫は約5割が顔とマスクの隙間から漏れ出した。

強い口調で約1分発話した場合のシミュレーション。飛沫は横に広がっていない
強い口調で約1分発話した場合のシミュレーション。飛沫は横に広がっていない
提供:理研、豊橋技術科学大学 協力:京都工芸繊維大学、大阪大学
[画像のクリックで拡大表示]

 大きい飛沫の拡散防止に有効な対策はマスク着用に加え、パーテーション(間仕切り)の設置と座席の千鳥配置(人が正対しないように互い違いに座る)だ。シミュレーションによると、大きい飛沫は正面に2メートル程度飛ぶ一方、横には広がらないことが分かった。間仕切りを設置したり座席を千鳥配置にしたりすれば、大きい飛沫の拡散リスクを下げられる。

 だが、注意点もある。間仕切りの高さだ。シミュレーションでは、間仕切りが座る人の頭の高さ(高さ140センチメートル)だと正面への飛沫到達量を10分の1以下に抑えられたが、口より少し高い程度(高さ120センチメートル)では効果が限定的だった。間仕切りを設置する際は、座る人の頭まで高さを確保すると効果的だ。

間仕切りがある席でせきをした場合のシミュレーション。左は高さ120センチメートル、右は高さ140センチメートル。120センチメートルでは飛沫が多く正面の人にかかってしまっている
[画像のクリックで拡大表示]
間仕切りがある席でせきをした場合のシミュレーション。左は高さ120センチメートル、右は高さ140センチメートル。120センチメートルでは飛沫が多く正面の人にかかってしまっている
[画像のクリックで拡大表示]
間仕切りがある席でせきをした場合のシミュレーション。左は高さ120センチメートル、右は高さ140センチメートル。120センチメートルでは飛沫が多く正面の人にかかってしまっている
提供:理研、豊橋技術科学大学 協力:京都工芸繊維大学、大阪大学

 千鳥配置の場合は正面の机に残る飛沫にも注意が必要だ。坪倉教授によれば、湿度が高いほど大きい飛沫が机に落ちる割合は増えるため、机を介しての接触感染リスクがより高まるという。湿度の高い梅雨や夏は特に「机のこまめな掃除が大事だ」(同)。

机に残る飛沫のシミュレーション。左が湿度30%の場合、右が湿度90%の場合。湿度が高い方が机に落ちる飛沫の量が多い
[画像のクリックで拡大表示]
机に残る飛沫のシミュレーション。左が湿度30%の場合、右が湿度90%の場合。湿度が高い方が机に落ちる飛沫の量が多い
[画像のクリックで拡大表示]
机に残る飛沫のシミュレーション。左が湿度30%の場合、右が湿度90%の場合。湿度が高い方が机に落ちる飛沫の量が多い
提供:理研、豊橋技術科学大学 協力:京都工芸繊維大学、大阪大学